「こら結ちゃん、お行儀悪いよ。もうちょっと上品に振舞えないのかな」
「この上から目線のそういうセリフがムカつくんだよ。つーか結ちゃんって呼ぶな」

座っているまま結が縁さんを蹴り、縁さんが「痛っ」と非戦闘員らしい声をあげる。縁さんは体の細さからもわかるとおり(俺も結もがたいは良いとは言えないが、縁さんよりはましなはずだ)、全くと言っていいほど戦わない。正確に言うなら、戦ったところを見たことがない。戦えるのかもしれないが、出来れば敵としては対峙したくない。

「いつも与謝野さんは気性が荒いですよね。カルシウム取ってますか?」
「姫菜ァ……、お前も幸田さんの味方かよ」
「おっ僕のことをちゃんとさん付けで読んでくれたのかい?よしよし」
「撫でるな!」

「姫菜」と呼ばれた女性のことを、俺は詳しく知らないが、後日結から聞いた話によると、どうやら結の部下であり、同じキャスト仲間らしい。俺は直接会ったことは無い、はずだ。
森姫菜。黒髪赤目に大きい赤ぶちメガネ。白いブレザーに椿のブローチで止められたストール、そして首から下げているのはハートの形をした可愛らしい鍵。それがアクセサリーなのか、本当にどこかの鍵として使えるのかはわからない。
そして俺の目に一番留まったのは―――

「黒のガーターベルト……」
「は?何だよ雫、姫菜のことが気になるのか?」
「気になると言えば気になるけれど、俺は灰音さんしか見てないよ」
「ンなことは分かってるっつーの。つーかどこ見てんだよお前」
「いやいや、黒のガーターベルトの単語で彼女だと分かる君もどうかと思うけど」
「……」

黙り込んでしまった。なんかごめん、結。
俺が黒のガーターベルトを気にしたのは、そういえば周りにガーターベルトをつけている女性がいないと思っただけなのであるが、これは次に灰音さんにリクエストしてみるべきだろうか。あれはあれで考えてみると良いものがある。

「……お前変わってないな」
「? 何が?」
「コスプレ癖」


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