サンドリヨンでは、週に一度、頭領(以後灰音さんと呼ばせていただく)の計らいでお茶会が開かれることになっている。そのお茶会は、特に変わったところもない、ありふれた形式のもので、彼女自らが出してくれるハーブティーと香ばしい香りのクッキーが、いつも俺の鼻腔をくすぐる。わざわざ花屋から季節の花をたくさん買ってきて、丁寧に飾っているあたり彼女の気合の入れ具合が見て取れる。
このお茶会に呼ばれるのは、灰音さんの知り合いである面子がほとんどなのだが、稀に彼女の知り合い以外が呼ばれることがある。それが今回の面子であった。

「この面子、どうにかなりませんかね」
「何で?僕としては最高の面子なんだけれど」

俺の隣に堂々と座っているのは、この次元では―――嗚呼、失言した。
気を取り直して、このへらへらと狐面を貼り付けたような笑みを浮かべている男が、頭領の父親が設計した遊園地『コント・ド・フェ』の管理人として働くその人である。もっと身近に言えば、灰音さんの実兄である。名前を、幸田縁という。
彼は厳密に言えば、『コント・ド・フェ』側の人間で灰音さんと密接な関わりを持っていることに変わりはないのだが、今現在はサンドリヨンの正式メンバーではない。それでもこうしてお茶会に顔を出しているということは、余程可愛い妹が気になるのだろう。灰音さんを好いている俺からすると、なかなか面倒くさいポジションに面倒くさい男が来たな、といった感じである。本当面倒くさい。
いろいろあって、以前よりは縁さんへの嫌悪感は払拭できたものの、未だに何を考えているかよくわからない人の一人である。むしろ、ぶっちぎりの一位である。

「最高なメンツなわけねェだろ。オレとしてはお前が隣にいるだけで最悪だね」

俺と同じ考えを呟く男が一人。彼は、俺の大学時代の同級生である。普段は縁さんと同じ『コント・ド・フェ』で働くいわゆる『キャスト』―――つまり簡単に言えば、ゲスト(これは客のことを表す単語)を出迎える従業員のことである。イベントが催されれば、それに扮した格好でアトラクションを案内したり、ツアーガイドもしたり、チケット販売の受付窓口にいることもしばしばあるのだそう。俺はとある事情からあまり遊園地には行かないのだが、愛想笑いもろくに出来ないような不器用そうな彼がどうしてキャストになっているのか、見当がつかない。
彼の名前は、与謝野結。ユイと聞けば女性のような名前だが、れっきとした男である。それに結のことを女だと冗談でも言ってしまえば、ぶん殴られかねないから、俺は好奇心を抑えながら口をつぐんでいる。それなら髪の毛を切ればいいのにと思うのだが、彼は大学時代から髪の毛が長かった。何か願掛けでもしているのだろうか。


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