サンドリヨンの頭領――幸田灰音(コウダ ハイネ)は、この組織に不釣り合いで、この組織に不似合いで、この組織には不向きで、尚且つ――この組織に愛されてしまったのだ。
そして俺もまたこの組織に魅入られてしまった―――否、組織に魅入られた彼女に愛されて、愛してしまった。そんな夢見がちな二人が、どうしてこんな組織で夢だけ見て過ごせるだろう。
彼女の笑顔は人を幸せにし、彼女の振る舞いは人を和ませ、彼女の無償の愛に救われた者が、この組織にどれだけ存在することだろう。俺もそんな彼女に救われた中の一人であり、彼女を心から支えたいと何度も思わされた。人の上に立つ者というよりは、人の傍に立つ者であったと言えるだろう。
仮に、俺がこの組織に所属していなければ、海音寺グループの跡取り息子であった俺ならば、また違う意味で有意義な人生を過ごせていたはずだ。そもそも海音寺グループのモットーは死者と生者の繋がりを大事にする、みたいなものでよく妹が『死者さんと、そのご遺族さんの心と心を繋ぐのです!』みたいなことを言っていたような気がする。
海音寺グループは簡単に言えば、人々の冠婚葬祭にまつわることのお手伝いをさせて頂く会社なのであり、特に力を入れているのが葬儀。だから妹は、毎日何人もの棺に入った死体を見ていることだろう。勿論幼いとは言え、上の立場である人間だから、さすがに死体に触れたり、その顔を見たり花を手向けることはあっても、それ以上のことはしない。
ただ皮肉なことに俺は、人の死体を別の形で、将来山ほど見ることになるのであった。
妹は仕事で死体を見ているわけだし、俺も仕事で死体を見ていることについては確かに共通しているものはある。しかし決定的な違いとしては、それが故意的であるか、事故的であるか、だ。
妹が働いている海音寺グループは、どうしてその当事者が亡くなってこのような死体になったかまでは特に追求しない。仮にそれが人為的な事件だったとして、海音寺に出来ることといえば葬儀を行うくらいのことだけだ。警察ではないのだから、誰に殺されただの何で亡くなっただのを調べる権限は存在しないのだ。
ただサンドリヨン―――正式名称【政府眷属執行代理組織】は、そのような事情は一切ない。政府が殺せと言ったら殺す、政府がしろと言ったらする、言い方は悪いがわかりやすく言えば『政府の犬』なのである。海音寺が直接政府から命令されることがないのとは対照的に、サンドリヨンは政府から命令されないと特に動くことのない組織である。仮に海音寺を表の組織とするならば、サンドリヨンは誰から見ても裏の組織だと言えるだろう。だから俺は余計に、あの彼女が、あのシンデレラに憧れた少女のような彼女が、この組織の頭領をやっているかいまいち分からない。

「ねえ、何を書いているの?」


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