……ああ、噂をすれば。これはね、日記です。今日起きた出来事を忘れないようにする日記。
「日記、ねえ。アンタってそういうの書くタイプだったのね」
意外でしたか?
「……別に意外ではないけれど、まめだなって思って。私なんて三日坊主ですぐ書いてることを忘れてそのまま止めちゃうわ」
そうですよね。貴女ってあまり物事が長続きしなさそうなタイプですし。
「それ、絶対私のこと馬鹿にしてるわよね……」
こう見えて、頭領のことは何だかんだで知っているんですよ。嗚呼、別にストーカーとかそういうのではないです。ただ傍にいる時間が長いと、何かと目や耳に入ってくるもので。
「ふうん? そんなに私のこと気にしてくれてたっけ?」
 ……一応は、と言っておきましょうか。よく考えてもみてください、俺のことを何だかんだ傍に置いていてくれるのは貴女ですよ。
「……」

彼女は少し罰が悪そうにそっぽを向く。照れてくれているのだろうか、はたまた俺が何か気に障ることを言ったか。どちらかは断定できなかったが、彼女は特に気にしていない様子で、思い出したように俺に言葉を投げかける。

「そうそう、何を言いに来たか思い出した! 今日、どうやらうちはオフみたいなのよ、ちょっと手伝ってくれない?」
……何を手伝えと言うんですか。また厄介ごとを持ち込もうとしているのではないでしょうね。
「またって何よ、私は一度たりとも、他の組織の人間に迷惑なことを押し付けている覚えはないわ」
覚えがないだけで、実際押し付けられている実感はありますよ。
「……やっぱり喧嘩売ってるわよね」
いつものことでしょう。頭領があまりにも可愛らしいのでからかいたくなるんですよ。
「……減らず口は本当に減らないわね」
減らず口ですから。それに本当に口は減らないでしょう。
「そういうのを減らず口って言うの。それか屁理屈?」
どちらでもいいですよ。それより本題を忘れていませんか? 何か俺に頼みごとがあるのでしょう。
「そうそう! なんだ、結局引き受けてくれる気ではいるのね」
引き受けるかどうかは、話を聞いてからでないと判断しかねますし、いくら頭領の頼みだからと言って聞けないことは聞けないですからね。ただ、ある程度は聞きますから、とりあえず言うだけ言ってみてください。
「大丈夫よ、そんな負担になることじゃないし。可愛い頭領のお願いなんだから、しっかり聞きなさいよ」
……嫌な予感が。
「海音寺雫、後で私の部屋に来るように。別任務を与える。……そうね、今から三十分後。遅れずに来るのよ」

彼女はそう言って、俺の顔を見ながら微笑んだ。


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