一周年企画 | ナノ






*「やっと会えたね」→「あなたたちとなら始まりを」→これ



「基本的に殺生丸はとにかくなまえに甘かった気がする」

「そうなんですねー。まあ確かに旅をしていたときも殺生丸さま、なまえさまのこと色々と気にかけてたしなあ…」

「ガキのときは母親が違うだけで偉い違いだなって思ってたけど、なまえだから優しかったんだろうなーって昔を思い出すと笑いが止まらねえ」

「それ殺生丸さまの前で言ったら犬夜叉さま問答無用で斬られちゃいますね」

「うん。よかったね、この場に兄上いなくて」

「げ。なまえ……」



りんを呼びに楓の村の奥へと足を進めれば聞こえてくる犬夜叉とりんの話し声。
どうやらかごめは今留守にしているらしく見当たらない。りんに用があって来たとは言っても挨拶くらいはしたかった。
また次来たときは絶対会おうと心に決め持っていた着物を端に置いてから、人の顔を見て失礼な声を出した犬夜叉に近づいて軽く小突いた。



「これでも犬夜叉より生まれた時期は早いんだから生意気な態度取らないでよ」

「けっ。ばーかばーか」

「子供か」

「なまえさま、いらっしゃーい!」



無邪気なりんの笑顔に癒されつつ、どうしたの?と用件を尋ねられ「兄上がこの近くで私のこと待ってるんだけど、一緒に行く?」と私も笑顔を返した。
村へ極力近づきたくないからとりんの着物を送り届ける仕事を私に任せた兄上だけど、(村のことは本心だろうが)きっとりんには会いたいはずだ。
りんはぱぁっと顔を明るくさせると「行くっ!!」と元気に返事をする。腰を上げるとよく分かるりんの昔より伸びた身長に改めて驚かされた。これがかごめの言っていた成長期とやらか。
正直伸びてもいいが私を抜かさない程度に頼みたい。



「行ってきまーす!」

「じゃあまた会いに来るよ、犬夜叉」

「わかったからとっとと行け」



邪険な態度を取りながらもひらひらと此方へ振ってくれる手に思わず笑みがこぼれて睨まれてしまう。
何か言われる前にとっとと出ていってしまおうとりんの手を握って兄上のところへと向かうことにした。

歩いている最中終始嬉しそうなりんに分かっていながらも「兄上と会えるの、そんなに嬉しい?」と聞く。
何度も頷いて肯定を示されなんだか自分のことのように嬉しくなってしまった。妹のような彼女が唯一無二の兄上のことを大事に思ってくれているからだろうか。大好きで尊敬している兄上のことを好いてくれるりんに嬉しくなるのは当たり前の感情だろう。そう、と言葉の代わりに微笑んだ。



「殺生丸さまに会えるのも嬉しいけど、りんはこうしてなまえさまと手を繋いで歩いてるっていうこともすごく嬉しいよ」

「え?」

「だってりんはなまえさまのことも大好きだもん」



りんにぎゅうっと強く握り締められた手と共に心臓が同じく握り締められたような感覚に陥る。
かごめに一度だけ聞いたことがある。人はあまりにも嬉しいときや感動したときなどにこんなふうになることがあると言う。
今思えばあれは犬夜叉と自分の惚気だったのだろうが、目を瞑ろう。妖怪の私にも人間と同じような感覚を覚えるのは予想外であったが、きっと今私はすごく嬉しいという気持ちで溢れている。



「あっ! 殺生丸さまー!!」

「お!? せ、殺生丸さま! りんの奴また背が伸びているのでは!?」

「……来たのか」

「えへへ。なまえさまが気を遣って連れてきてくれたんですよ」



兄上を見つけると駆けていくりんの後ろを遅れて歩いていく。
私が連れてきちゃいましたと舌を出して言えば、呆れたような邪見の声と兄上のふんっと鼻を鳴らす声が聞こえた。

そこでふと、唐突に初めて会ったときのころを思い出した。仲間になりたいなと心から思っていたあのころのことを。



「ねえ殺生丸さま! りんね、聞いてほしいこといっぱいあるんだ!」

「だからずーっと言っているように、お前と違って殺生丸さまは忙しくてだな!!」

「まあまあ小妖怪。たまには皆で草原で座りながら雑談もいいものだよ」

「言いくるめようとするたびに小妖怪と呼ぶ癖、そろそろなんとかできませんか……なまえさま……」

「――少しだけだ」

「え。マジですか」

「わーい! やったあ、何から話そうかなー」



心から仲間になりたいと願っていたころの私が、こうして皆といる姿を見たら羨ましがることだろう。
そして仲間になれて幸せそうな表情を見て、胸が締め付けられるのだ。



「行きましょうか、兄上」

「………」



向けられた兄上の視線がまるでよかったなと言っているようだった。

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