まさかの大穴
「ほら、着いた!」


慶次は言い、中へ入っていく。


「か、勝手に入っていいのかな…。ここって、」
「いーんじゃない。…ゆきの予想が合ってれば、いるってことじゃん」


怯えたように立ち止まるゆきの手を、藤木は半ば強引に掴んだ。

慶次に続いて廊下を進み、何度か角を曲がった先に、閑静な和室があり。
そこに、“その人”はいた。

陶器のような白肌に、澄み渡った薄青の眸。
優美な佇まいを持つ“その人”は、ゆきの想定した人物に違いなかった。


「ケージさん家って…」
「上杉…だったの…!?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」


全く意に介するともなない様子の慶次に、藤木は密かに嘆息した。
否、さしたる障りはないが。


「…けいじ」


ここで漸く、“その人”―――上杉謙信は口を開いた。


「そのおなごたちとは、どこでであったのですか」
「おっと! そうだ、言ってなかったな! 京で会った娘たちで、面白い娘だったから連れてきたんだ!」
「…そんな理由で連れて来ないでほしかったな…」


ゆきの呟きは、慶次には届かなかったらしい。
そのまま紹介を続ける。


「そっちの、髪が茶色で短い方が藤木ちゃん」
「ちゃん…!? キモっ…」


藤木の呟き…基 ツッコミは流石に聞こえたが、意味までは伝わらなかった。
ただ、嫌悪していそうなことは判った。


「で、桜色の髪の方が杜若ちゃん」
「あっ、えと…えーと…す、すみません…っ」
「ゆき の コミュ障 が はつどう した ! たいおう に こまっている!」
「何でRPG!?」


そんなやり取りを、謙信はじっと見ている。

―――綺麗だけど、何か怖いな。

ゆきの抱いた感想は大体そんなものだった。
どこか居心地の悪さを感じる、目だと思った。

―――あー、やっぱ そうなるよね。

藤木は、ゆきの感じた『居心地の悪さ』の正体を理解していた。


「…ねー、ケージさん。ゆきって凄い寒がりなの。だから、暖房…あったかいとこ? に連れてったげて?」
「藤木はっ?」
「あたしはもうちょい、謙信さんと喋ってから行くから」
「…判った」


少しばかり、ゆきが沈んだのを見て、藤木はにんまり笑った。


「何。もしかして寂しい? ゆきちゃーん」
「そ、そんなことない! じゃあ行ってるよ?」


慶次に連れられ、ゆきが行ったところで、藤木は謙信を見た。


「そんな顔してたら、美形が台無しだよー?」
「…そなたらは、いったいなにものなのですか」
「やっぱ疑われてたか」


猜疑心。
武将であれば、当然持ち合わせているものだ。


「あたしらは、別にここで何かしてやろうとか思ってるわけじゃないよ。ただ、元いた場所に帰りたいだけ」
「かわったころもは、そのせいですか」
「そ。あたしらは未来から来た。でも、この世界の歴史とあたしの知ってるのは全然違う」


ゲームの世界、ということは伏せて進める。


「だから、謙信さんが何か情報がほしくても欲しい情報は持ってない。ましてや、“この先”なんてね」
「………」


言い切ると、謙信も同じように黙った。
ただ互いの目だけを見る。

やがて、謙信の方が目を伏せた。


「どうやら、うたがったわたくしがまちがっていたようです」
「…そう」
「藤木…といいましたね」
「うん」
「そなたらが、まことのせかいへもどれるひまで…ここにいるとよいでしょう」
「やりぃ」


にや っと笑う藤木を、苦笑しながら見つめた。


「じゃ、またねー 謙信さん」


不意に立ち上がると、 藤木は和室を出ていった。
と、思ったが、すぐに戻ってきた。


「多分、そんな長くにならないと思うけど宜しく」


それだけ言うと、今度こそ出ていった。

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