喧嘩が始まってから、ものの5分ほど。 そう、“5分”ほどだ。 「…強いなぁ、二人とも…」 思わず独り言が漏れるくらい、藤木と慶次のコンビは強かった。 慶次の背後を狙う男がいるなら、藤木の傘での突きを食らわせられる。 藤木の横腹を抉ろうとするなら、慶次がその拳を受け止め、宙へ投げる。 「なんか…私って…、何もできないんだよね…」 いつも、いつも藤木はゆきを救ってくれた。 中々強引な時もあったけれど、最後には救われていた。 何も返すことができないのが歯痒かった。 「ゆき! って、どうした? お腹でも痛くなった?」 「…ううん、何でもないよ藤木 」 急いで笑顔になってみせたゆきの顔を、藤木はじっと見つめ。 「嘘つくんじゃねぇえええ!!!!」 「きゃぁあああ!!!!?」 胸を鷲掴んだ。 咄嗟のことすぎて、慶次にも理解ができていない。寧ろ、どうしていいか判らなそうに辺りをうろうろしている。 それもそうだ。これが喧嘩なのか、じゃれているだけなのか―――初対面には中々判断し難い。 「うっ、嘘なんか、」 「あたしを何だと思ってんだ!ゆき のことなんて何でも判るんだよ!」 「藤木…」 叱りつけるような声に、ゆきは藤木の目を見た。 「スリーサイズから生理の周期までお見通しだわっ!!」 「私の感動 返して! あと、胸触るの止めて!」 「触ってるんじゃない、揉んでるんだ」 「そういうことじゃないっ!!」 「いやぁ、あたしって変態キャラだしさ。うん、許せ☆」 「キャラ!? え、キャラなの!?」 漸く解放されると、ゆきは大きく息を吐いた。 藤木はニヤッと笑う。 「まぁ、あたしがおもちゃにしたいの、ゆきだけだからさ。一応、“一応”必要なわけ。判る?」 「…一言余計だよ…」 「何にもできてないわけ、ないじゃん」 「っ!!」 見透かしたような言葉に、ゆきが固まる。 何も変わらずに、藤木は笑って手を差し出す。 「さて、こっからはゆきの大喧嘩だな」 「え? それってどういうこと?」 「うーん? こういうこと☆」 藤木はすっかり手持ち無沙汰になって、夢吉と遊んでいる慶次を指した。 「ケージさんに、あたしらのこと説明しといて?」 ゆきは、ぽかんと藤木を見つめる。 「…え?」 「じゃ、あたしは町娘さんウォッチングしてくるから! …おっひるやーすみはうっきうっきウォッチング♪ あちこちそちこち…、ええと、何だったっけなぁ…」 藤木が人ごみに消える。 「……え?」 ゆきは空を見上げ、それから慶次を見て。 「えええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!????」 絶叫した。 「っ、ど、どうした!?」 「あっ、やっ、ご、ごめんなさいっ!!」 明らかに怖がっているゆきに、慶次は柔らかな笑顔を向ける。 生まれてこの方、ここまで怖がられたことはなかった。 戦場で、農民に遭遇した時よりもよっぽど怖がられている。 それが慶次に火をつけようとしているとは夢にも思わず、ゆきは何となく、初対面の人への常套句を口にした。 「は、ハジメマシテ…?」 「初めまして、ゆきちゃん」 「ひっ…」 「…俺、そんなに怖い顔してるかな?」 「そ、そうでは…なくて……、その…わ、私…人が…、に、苦手、で……えと…」 「ああ、藤木ちゃんが言ってたっけ。じゃあ、ちょっとゆっくりでいいからさ。俺と話してみちゃあくれないかい?」 「は、はい…」 手で指された位置に、ゆきが座った。 少し離れて慶次が座る。 「あんたたちは、何者なんだ?」 「何者…ですか…」 「見たところ、どっかの忍ってわけじゃなさそうだ。だけど、見たことない恰好だ」 「…です、よね」 「教えられねぇことならいい。でも、答えられえるならさ」 教えてほしい、と慶次は少し頭を傾けた。 ゆきは慌てふためいたように、辺りを見回してから、ぽつり と言った。 「私、たちは…、ここじゃない世界…。平成ってところから、来ました。理由は、…えと……判りません、けど…、で、でも、敵…とかじゃ、なくて…えと……えぇと…」 「…ここじゃない世界、か」 慶次が遠くを見つめるように、どこかへ視線を向けた。 その先には――― 「お姉さん、可愛いねぇ。ちょっと手、触ってもいいかな?」 「え…あ、はい……」 顔を赤らめ、手を差し出す町娘と。 「何かすべすべしてて気持ちいい………えへへ」 にやにや笑う藤木が見えて。 慶次とゆきは同時に立ち上がり、“異口同音”を体現してみせた。 「「何やってんのあんた!!!」」 ← back→ |