「あ、そんな警戒心丸出しの目で見ないでくれよ!」 「いきなり背後から話しかけられて警戒するなっていうほうが無理だと思うんだけど?」 男と向き合った藤木。 その背中にサッと隠れるゆき。 「ハハッ!そうか、それもそうだ!」 「それで、うちらに何の用?」 じっと相手を睨むが、男は朗らかで豪快な笑顔を浮かべてひるむ気配はない。 「ああ、そうだった。 好奇心旺盛なのはいいけど、櫓に上ったら危ないよ。 ただでさえ君ら、派手好きな京の人たちの中でもすっごい目立ってるし! 変な輩に目を付けられちゃうよ?」 「…それも、そうだね。」 「うーん、一理ありって感じ?」 確かに二人の格好…制服は周りの人と比べても明らかに異質な感じがする。 今更それを指摘されて、うんうんとうなずく藤木とゆき。 「でも、あたし等よりもあんたのほうが目立ってる気もするんだけど。」 「そりゃ、俺は派手なの大好きだしね! ッと、自己紹介が遅れたね! 俺の名前は前田慶次! 以後よろしく!」 「ん、よろしく。 ケージさん。」 何も知らない藤木が慶次と握手をしようとしたとき、グイッとゆきが藤木を引っ張った。 「…なに、どうしたの?」 「ママママ!前田慶次で気が付かないの!? というか、この人! BASARAの登場人物!」 「…はぁ?」 藤木の耳元で興奮したように早口で、しかもかなり動揺しながら言うゆき。 そのおかげで藤木にはまったく理解できていない。 「この明らかなるチャラ男がどうかしたわけ?」 「だぁーかぁーらぁーー!」 二人でこそこそしていると、いきなりあたりが騒がしくなってきた。 「…どうしたんだろ、あそこ。 人だかりができてる。」 「ほんとだ。 なんかあったのかねぇ?」 「多分、けんかだよ。 派手好き、喧嘩好きが多いからな! そんじゃ、俺も一丁混ざって来るかな!?」 いうが早し、慶次は背負っていた獲物を地面に勢いよく立てた。 その反動で、慶次の大柄な体は宙に浮く。 人間離れした跳躍力で、軽業のごとく宙を舞い、人々を飛び越える。 そして、ちょうど誰もいないところで着地した。 「楽しそうなことしてるな! いっちょ、俺も混ぜてくれよ!」 「な、何だ!?」 「な、なんでお前が・・・・!?」 今にも喧嘩をおっぱじめそうな、そんな状況のど真ん中に慶次は降り立った。 とても楽しそうな笑みを、不敵に浮かべてその獲物を投げ出した。 「さあさ! いっちょ、派手に行こうぜ!」 「好都合だ…! 日頃の恨みを思い知れえええ!!!」 数人いた男の一人が、慶次に殴り掛かった。 慶次はそれを紙一重でよけ、よけるついでに一発肘を顔面に叩き込んだ。 崩れ落ちる男。 それを見て、周りの男どもは一瞬ひるんだがそれでも慶次に向かってきた。 「…すごい。 あの人強いんだね…。」 人ごみに交じって観戦する二人。 ゆきは時折見ていられないという風に目を背けるが、それでも興味津々そうに。 藤木は冷めた目でそれを眺めていた。 「我流…かな? なんかすごい喧嘩慣れしてるね。 てか、なんで殴られんの分かってて向かってくのか…あたしにはわっかんないなぁ。」 真顔でMなの?と聞いて来る藤木に苦笑するゆき。 そのとき、背後から鈍器のようなものを持って忍び寄る男が見えた。 慶次はほかの男に気を取られて男に気が付いていないように見えた。 ゆきが「危ない!」と叫んだ。 それと同時に、男が崩れ落ちた。 「!?」 慶次が、驚いた表情で崩れて地面にだらしなく寝っ転がっている男のすぐ近くに立つ藤木を見る。 その手には紫色の番傘が握られていた。 「背後から不意打ちなんて卑怯な真似、元剣道部の変態貴公子と言われたこのあたしが許さないよ!」 「え、なにそれ。 初耳なんだけど…。 ていうか、それ自分で認めて言っちゃっていいの!?」 思わず、ゆきが間抜け面で突っ込んだ。 「…へぇ。あんた、戦えたんだね。」 「型にはまったお遊び剣道だけどね。 でもま、この程度のやつら倒すのには十分でしょ。」 普段通りの軽口とは違い、スッと静かに番傘を構える目は真剣だった。 「なんか、ノリで参加しちゃったからさ。 こいつら全員ぶちのめすの手伝うわ。」 「そりゃ助かるよ! こいつら意外とタフだからさぁ。」 そう言って、慶次と藤木は背中を合わせた。 その二人の姿が、ゆきにはとても格好よく見えた。 「これが終わったら、ゆっくり話がしたいな!」 「ナンパ? いいけど、連れは男性恐怖症どころか重度の人間恐怖症患者だよ?」 「ハハ!それって、あの子のことかい? そういう簡単にはいかない子と仲良くなろうとする方が燃えるんだよねぇ!」 「そのまま焼け焦げてしまえ!」 二人は不敵な笑顔を湛えたまま、同時に反対方向に駆け出した。 「楽しくなってきたぜ・・・!!!!」 ← back→ |