藤木がゆきから相談を持ちかけられていたことを思い出したのは、放課後のことだった。


「そういや、何の相談だったわけ?」
「えっ? あ…うん。あのね、私 対人恐怖症を治したいな…なんて…」


少し恥ずかしそうに呟かれた言葉に、藤木は目を丸くした。


「ほっほぉ〜。また突然ですな」
「うん…、だから明日はクラスの人におはようって言おうと思って」
「うん、いーんじゃない? あんたの根深ーいコミュ障が治るかどうか、しっかり見てるからw」
「…ねぇ、今 語尾に“w”ってつけなかった?」


じとっとした目をガン無視すると、、藤木は唐突に叫んだ。


「あ! 信号 変わる! ほら、走れ走れ!」
「ちょっと! 誤魔化さないでよ!」


けらけら笑って横断歩道を渡る藤木。
歩道で足を止めると、ゆきはまだ渡っている途中だった。

遅いなぁ、ゆきは。

そんな風にからかってやろう と口を開きかけた時、


「っ、ゆき!!」


ゆき目掛けて突っ込んでいくトラックに気づいた。
立ち竦むゆきの腕を引っ張って、歩道へ逃げようとした。

だが。

何もない横断歩道で、藤木は転んだ。
誰かが足を引っかけたのかと思うほど、唐突に。

もう、逃げることはできなかった。

騒音のようなブレーキが、二人と“空間”を切り裂き―――。

二人は叢に放り出された。


「………あれ?」
「痛…くない?」


殆ど同時に周りを見回す。


「何で叢なんだろ…」
「…多分、トラックにばーん! って飛ばされて、ここにきたんじゃない?」
「でも痛くなかったし…」
「まあまあ、とりあえず探検ターイム! さ、行くよ!」
「え!? 森で迷った時は無闇に動き回ったら駄目って、」
「ほら、あそこ明るいじゃん? 誰かに訊いてみようって」
「だ、誰かに…!」


先程の宣言はどこへやら で震え出すゆきに気づかないふりをすると、手を引いた。

暫く歩き、藤木たちは森を抜けた。

そこに飛び込んできたのは。


「ここ…って…」
「…間違いない、ね」


二人は息を飲む。


「“鏡都”だ!」
「違う! 京都! あんたの脳内は万年アニメかっ、この二次オタコミュ障が!」
「…ぃたぁっ!」


判り難いボケをしたゆきを軽く制すると、藤木は周りを再び見回した。

その場所は、修学旅行やらで見た“京都”にそっくりだった。
だが、決定的に何かが違う。

それに気づきかけた時、ゆきが殴られた頭を擦りながらぽつり、と呟いた。


「どうしてみんな 着物なんだろ…」
「それだ」
「え、何が?」
「祭り…とかなんかな。なーんだろなー、この…い、違和感?」


独り言のように呟く藤木の袖を、ゆきがぎゅっと握りしめた。
不安が伝染らないように、藤木は笑った。


「さーて、聞き込み開始ー! っと、ちょっとお姉さん…! いい腰してるねぇ、触ってもい、」
「いいわけないでしょ…! すみません…っ」


藤木は名残惜しげに手をひらひらした。


「あー…、何すんのさ ゆき。あと、今の絶対聞こえてないよ」
「え!? ほんと?」
「ウン。声小っさいし、早口すぎ、ワラワラ」
「うー………!」


恨めしげな視線を送ってくるゆきを軽く往なすと、藤木は前を進んだ。

ちょくちょく、町娘たちに声と手を出しつつ。
ゆきも段々慣れてきたのか、少し謝る声が大きくなった。


「何だろ、これ」
「櫓、かな?」
「よしきた登ろう」
「えぇっ! ちょ、藤木!」


ゆきの制止を振り切って、梯子に足をかける。


「ちょっと待った!」
「あ、ごめんなさいっ!」


後ろからかかった声に、ゆきは反射的に頭を下げた。

かけていた足を梯子から離すと、藤木は声をかけてきたポニーテールの男をじっと見た。











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