とある高等学校。
そこは別段、何が変わっているわけでもない。



そんな学校に、二人は通っていた。











「ハァ…。」









ふわり







窓際の席に座る少女の長い髪が風になびいて静かに揺れる。

その髪の色は、普通の人間では考えられないくらいに美しい、桜色をしていた。











そんな少女は憂鬱そうに窓の外を見る。










そんな少女の背後から、一つの影が忍び寄った。



















「なぁに黄昏てんだよ!
ため息一回ごとに約一つの幸せが逃げてってんだぜぇ!」











「きゃあぁあッ!?」













その影は、背後から座る少女に覆いかぶさるように抱き付き、少女の胸を軽く触る。

いきなりのセクハラと、背後から気配を消して抱き付かれたことに桜色の髪をした少女はふざけではない悲鳴を上げた。












「ちょ!?藤木!
い、いきなり抱き付かないでよ!
あと胸!胸に触んないでッ!」













あたふたと暴れる少女を抑え込むようにさらにきつく抱きしめる藤木と呼ばれた少女。


ボブカットした頭にちょこんと結ばれた前髪が触覚のように立っている明るい茶髪をしていた。
その少女はしてやったりという風に明るく笑っていた。
















「だって、ゆきがまるで恋する乙女のように一人物寂しげに座ってんだよ?
そんな少女を見て後ろから襲わないほうがどうかしてるって!」










「藤木の思考回路のほうが私からしたらどうかしてるって!」















ニヤニヤと笑う藤木。



それを見て、またため息をつく桜色の髪をした少女――ゆき。













「あー!またため息ついた!
だから!駄目だって言ってるじゃんか!」








「うぎぃ…!?」












藤木がゆきのほほをつねりあげる。
幽霊部員だったとはいえ、元剣道部の絶対的エースだった藤木の握力はシャレにならない。



あまりの痛さに涙目になるゆき。
















「っと、やりすぎだね。」











それに気がついてぱっと手を放す藤木。
ようやく解放されたゆきはつねられた部分をさする。















「藤木はただでさえ力が強いんだからもっと加減してよぉ…。」












「ごめんごめん。
ゆきの頬っぺたってなんかマシュマロみたいで抓ると気持ちいいんだよね。」










「私をまるでストレス発散の道具みたいに…!」










「あー、別にそんなんじゃないって。
普通にいじると楽しいっていうか、ゆきだからやりがいがあるっていうか…。」












慌てて否定する藤木。
そんな必死な#藤木を見て、小さく笑うゆき。











「とりあえず、ため息つかないの!
幸せが逃げるぞ。
ただでさえあんた薄幸そうに見えるんだから、それじゃあマジで薄幸美少女なんて言うあだ名付けられるよ?」












「あはは…。」













苦笑いするゆき。
よっこいしょ、なんておっさんくさい掛け声をしてゆきの前の席に座る藤木。













「さてさて、ただでさえ悩みが尽きないあんたに、頻繁にため息つくようなことでもあったの?」













「相変わらず一言余計だよ…。」













「そーかな?」














キョトンと首をかしげる藤木に、何を言っても無駄だと悟ったゆき。
















「まあ、それはそれとしてなんかあった?
あたしでよければ聞きますよ、お嬢さん。」













「それ、私に藤木以外相談できる人がいないの承知で言ってるでしょ。」













また、ため息をつこうとして慌ててそれを止めるゆき。
また抓られでもしたらたまらない、なんて思いながら目の前に座る親友に悩みを打ち明けようとした














そのとき













「杜若〜!テストどうだった―?」














クラスメイトの女子が二人の間に割り込んできた。














「ッひ…!」









「んー?テストぉ?
そんなのどぶに捨ててきたのにきまってんじゃんか。」











ゆきが小さく悲鳴を上げる。
しかし、藤木はそれに構わずクラスメイトの女子と普通に会話する。










「あはは、あんたらしいね!
一羽ちゃんは?」














「ェ、あ…、あ、わ、私…」










せわしなく動くゆき。
それをみて藤木はにやけた顔で助け舟を出した。 












「相も変わらずの好成績ですよぉ〜?
あたしに分けてほしいくらいだし。」












「あんたに分けたら一羽ちゃんの成績が半分以下になるでしょうが。」










「ちょ!?それひどくね!?」















ひとしきり会話した後、クラスメイトの女子は去って行った。
うつむくゆきは小さくごめん、とつぶやいた。













「また…いつもの対人恐怖症が…」









「んー?
別にいいってことよ。
あんたのコミュ障っぷりはいつものことだしさ!」




















にこやかに笑って、藤木はゆきの桜色の頭をなでた。

















そんな昼下がりの、学校での会話。











































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