恋する動詞111題 | ナノ

40.疑う(謙蔵)

最近、謙也がクラスの女子と急激に仲良くなり始めた。
いやいや、俺ら恋人やろ…。

今日という今日は耐えきれなくなり、休み時間に小石川のところに駆け込んで、愚痴を聞いてもらっている。


小石川は副部長ということもあり、俺のことをよく分かってくれているので、何も言わずに黙って話しを聞いてくれた。


「ほんま急にすまんな」


「ええで。それにしても白石は、恋愛になると途端に自信なくすんやな」


「恋愛は基本も何も、初めてやから」


「そりゃあ不安にもなるなぁ。謙也も白石がこないな気持ちになっとること知ったら、可愛くてしゃーないやろうにな」


「かわいくないわ、アホ」


チラッと時計を見れば、もう少しでチャイムが鳴りそうだったので、小石川に礼を言ってから教室を出ようとしたら、扉の前に謙也がいた。


「お、おぅ…謙也」


「…白石、次の授業サボるで」


「は?何言っとるん…」


「ええから」



少し怒ったような口調で俺の手を引っ張り、屋上へ続く道を歩く謙也。


「謙也、いたい…」


「俺かて、痛いわ」


あまりにも強く引っ張るもんだから、抗議してみたら意味のわからない返答をされた。

いや、何でお前も痛がってんねや。


「ここなら、誰にも邪魔されん」


「うん…?」



屋上へ着けばすぐに、追い詰められ俺はフェンスに背を向ける。

目の前にごっつムスっとした謙也がおるせいで、自分が怒られると思い、ぎゅっと目を瞑った。


「お前、何で休み時間に健坊のとこいって、あないに楽しげに話ししとったんや」


「…え?」


確かに怒ってる。
けど、これは…何かちがくない?

「せやから、何で俺んとこやのうて健坊んとこ行ったんやって聞いてんねん。
俺のこと、もう好きやないん?」

「ちが……、俺はずっと不安で…あ、」


気づいたら涙が流れていた。

怒りたいんは、俺の方や。


「謙也が女子と仲良うしとるとこなんか見たないねん…楽しそうに笑うとるとこなんか見たない…っ」


勝手に動く口を止めることもしないで、どんどん溢れる言葉を言っていたら、突然謙也に抱き締められた。


「それ、俺めっちゃ悪いやん…ほんま、白石泣かせて何やってんねやろ」


「せや…謙也のバカ、アホ、ヘタレ」


「うん、ごめん」


「ドジ、わからずや、地味」


「うん」


「…好き」


「うん、俺も。白石が一番好き」




疑う


(たまに好きって、言ってくれれば十分だから。)





120318


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