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俺は焦った。 何故なら下駄箱に手紙が入っていたからだ。 俺みたいな奴に手紙が来るなんておかしい。きっと誰かの下駄箱と間違えたのだろう。 そう思ってとりあえず手紙を手に取ってみる。 「あ、小石川先輩がラブレターもろうとるー」 「財前…お前いきなり話しかけんな…」 手紙に戸惑う俺を見つけたらしい財前がからかいにきた。 こいつ、自分がモテるからって… 別に羨ましくなんかない。決して。ちょっといいなぁ、なんて思うだけだ。 「開けんのんすか、それ」 「開けたいとこは山々や。けどな、下駄箱を間違えとったら差出人の子が可哀想やろ。 好きでもない奴にラブレター読まれるなんて」 「俺は、そのラブレターは先輩に宛てたもんやってわかりますけどね」 「は?何でお前が…」 「ていうか、好きな人の下駄箱間違えたりせんやろ。 何回だって確かめるし、ちゃんと相手に渡ったか、そこら辺から眺めとったりもする」 「ほ、ほう…」 「せやから、それは絶対に先輩宛てのラブレターや」 「財前…」 「それじゃ、俺はこれで。また明日」 「ほな、明日…」 さすが財前…こんなこと、数えきれんほどあるんやな。 経験豊富って素敵。 せやけど、何でアイツは途中からタメ口やったんや…… そんなことを思いながら、手に握っているラブレターを見る。 ちょっと可愛気のある便箋が何ともまた俺の心を苦しめた。 (あぁ…こんな可愛い手紙がほんまに俺宛のやったら、どんだけ嬉しいことか) ため息をつきながら封筒の端をチラッと見ると、そこには遠慮がちに書かれた『小石川先輩へ』の文字。 …え?まじでか? もう一度確認するが、やっぱり自分の名前がそこには記されていた。 ん?でも、この字どっかで見たことある様な。 とととにかく開けてみよう。 中には簡潔に、 『好きです。付き合ってください』 という文章だけ。 それだけなのに、俺の胸は踊った。 こんな風に人から告白されたことなんて今まで一度もなかったから。 俺なんかを好きだと言ってくれる人がいてくれたことが、すごく嬉しく思えた。 (どこの誰かは知らんけど、ありがとうな) このすぐ後、封筒と同じように、便箋の端にも遠慮がちに書かれた『財前』という文字を見つけたのは言うまでもない。 壊れる (生意気な後輩でしか思っていなかったから) 120312 |