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(そうか…もう、こんな季節か) 吐き出した息が白くなるのを見て、そんなことをぼんやりと考えていた。 俺は今、ちゃんと自分の足で立って、ラケットも握れる。 去年の今ごろなんて、こんな自分の姿を想像することなんてできなかったのに。 何もかも訳が分からなくて、誰かに会うのも、話を聞くのも、息をすることですら疑問に思っていた。 「幸村くん」 「あぁ…柳生」 名前を呼ばれて振り返れば、俺の大切な人がいた。 そうだ。この当たり前になってしまった彼との関係も、去年にはなかったものだ。 「寒いのに外でお待たせしてしまい、すみません」 「本当だよ。身体が冷えちゃった」 「それはいけませんね。では、途中でいつものお店へ寄りましょうか」 何も言わずにただ頷けば、柳生も黙って俺の手を握る。 いつもの店っていうのは、二人で帰る時たまに寄る喫茶店のことだ。 初めは俺もきっと柳生も好きだろうなぁって思ってただけで、なかなか柳生に入ろうよって言えなかった。 でもある日柳生が 『今日はこちらで少しお話して帰りませんか?』 って誘ってくれた思い出の店。 つまり何が言いたいのかというと、柳生は俺の考えてることも分かるくらい俺を好きでいてくれてるっていう、まあ、ぶっちゃけ自慢なんだけど。 「幸村くん?」 「ん?」 「あまりボーッとしていると、転んでしまいますよ」 「受け止めてくれるクセに…」 「……頑張ります」 少し困っている彼が面白くて笑ってしまう。 俺が入院している間も何度も俺の名前を呼んでくれた。 そのたび、俺も困らせるようなことを言ってた。 そんなとこは二人とも、全く変わってないなぁ。 「好きだなぁ」 「はい?」 「柳生は俺のこと大好きだね」 「えぇ…!?は、はい…その、大好きです」 「ぶはっ」 「幸村くん!」 顔を真っ赤にして怒る柳生が可愛くて、マフラーを少し引っ張り彼の頬にキスをする。 「俺も大好きだよ」 「でなきゃ、困ります」 二人で笑いあって歩く帰り道は、いくら寒くたって温かかった。 呼ぶ (ずっと前から君が俺の名を) 121225 |