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(※社会人設定) 「はい、跡部の分」 「あぁ」 跡部の前にあるテーブルに紅茶の入ったティーカップを置く。 コトン、と陶器が軽くぶつかるこの音が可愛くて好きなんだ。 …なんてこと、言ってもきっと跡部は何とも思わない。 俺と跡部は付き合い出してからもう長いこと一緒にいる。 一緒にいるのが当たり前になり過ぎて、感じ始めている"違和感"に気づいても、それが何かも分からないし、彼にそれを伝えることも今の俺には出来ない。 別に仲が悪いわけではない。 友人としてはお互いに最高の人間だった。 ただ俺たちは、その一線を越えてまでなる関係じゃなかったんだ。 「明日も仕事?」 「いや、明日は休暇を取った」 「そっか…じゃあ久々に一緒に何か作らない?」 「そうだな。食いてぇモンあるか?」 「うーん……」 「はっ、まぁ焦らなくてもいいぜ。何でも俺様が華麗に調理してやる」 無邪気に笑う姿がやけに微笑ましい。 自信たっぷりな跡部の姿は今もずっと変わらない。 あの頃から彼はちっとも変わってないんだ。 だから多分、大きく変わってしまったのは俺。 そんな俺の心境を察してかは分からないけど、跡部もきっと俺と同じことを考えてる。 そして、同じ様に言い出せずにいるんだ。 だって言ってしまえば、恋人にも友達にも戻れないことを知っているから。 『俺たち、こんなハズじゃなかったのにね。』 いつか、そう彼に言える日が来るんだろうか。 誰も知らない「いつか」に、俺はただ無責任に思いを馳せるだけしか出来なかった。 持て余す (言葉も気持ちも、きっと同じものを) 121229 |