空回り、すれ違い





やべぇ、助けにいかねぇと。
体が動かない。
早く!
名無しが死んじまう!


手を、足を動かしても、全然進まない。
いやだ、いやだ、行かないでくれ!




周囲に大きな音が響き渡る。
バニーが名無しの上に降ってきた瓦礫の山を吹き飛ばした。
助かった。
名無しは生きてる。
泣きたいほど怖かったに違いない。
きっと涙が溢れ出すのを我慢してるはず。
そばに行ってやんねぇと。
でも、体がまだ動かない。

俺は、誰と間違えた?
「行かないでくれ」?

俺は名無しと友恵を重ねていたのか?




「虎徹さん、名無しさんは無事ですよ」

「あ、あぁ…」


バニーが近寄ってきた。
今、名無しは他の仲間たちに揉みくちゃにされ、その真ん中で微笑んでいる。


「声を掛けてあげてください。ああ見えますが、とても動揺しています」

「わかってんよ……、名無し!」


お前に言われなくたって名無しのことはわかってんだよ。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「ったく、お前ってやつは!」

「いたっ」

「これくらいですんだことを感謝しろ!」


笑いながら小さく震えているこの体を抱きしめてやりたい。
最初は友恵と重ねてたかもしれねぇ。
友恵の命日で酒に酔ってたってこともあった。
けど、今、気づいた。


俺は、名無しを愛してる。


抱きしめるために腕を伸ばす。
が、寸前でとまった。
名無しの視線の先にはバニーへ向いている。
俺は知っている、この視線を。




いつも俺に向けられていた名無しの視線、だ。




「……」




おい、嘘だろ。
遅かったのか?




名無し。




お前が愛してるのは誰だ?




END


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