この指とまれ





「名無し、昼飯一緒に食べに行かねーか?」

「え、いいけど」


あの事件以来。
気がつけば、名無しの姿を目で追ってしまっている。


名無しを知りたい。


もっと。


もっと。


もっと。




「珍しいね。虎徹から誘って来るなんて」

「たまにはいいじゃねーか」

「何か、照れる」


目を伏せてほんのりと頬を赤く染める彼女を仰視してしまう。
そんなに見ないでよ、と小さく呟いた彼女を愛しく思う。
友恵に感じた愛情とは、違う感覚だ。



まだベクトルは俺に向いているのか?



「あ、バーナビーだ!」

「名無しさん!……に、虎徹さん」

「……なんで俺見てテンション下がるんだよ」

「誰もオジさんを見て喜んだりしませんよ」

「このっ、バニー!」

「あははっ」



もう、手遅れなのか?



「ねぇ、虎徹。バーナビーも一緒にいいでしょ?」

「僕はいいですよ。虎徹さんと名無しさんの邪魔をするわけにはいきません」

「私と虎徹はそんなんじゃないってば。気にしないでよ」



渡したくねぇ。
例え、バニーでも。
誰であろうと。



「しかし……」

「もう、遠慮しちゃだめよー。ここは最年長である虎徹におごってもらいましょ!ねっ、こて……」




「ダメだっ!!」




「……っ!」

「こ、虎徹さん…?」

「っ…!わ、悪ぃ……」

「そ、だよね、勝手に決めて、ごめんね」

「そうじゃねーんだ、考え事してて……」

「虎徹さん、名無しさん驚いて体が硬直してますよ。謝ってください」

「お前に言われなくたってわかってんよ……名無し、来て……」

「……」


手を差し出すと、おずおずと小さくほっそりとした綺麗な手が重ねられた。
緊張のため、手はひんやりとしていた。
そのまま引き寄せて、自分の腕の中に閉じ込める。
普段ならこんなことしない。
ここが人の往来が激しい道のど真ん中で。
誰に見られようと構わない。

俺に向けられた名無しの恐怖に染まった目。
それ拭いたかった。
向けてほしいのは、そんな目じゃない。


「驚かせちまって、ごめんな。名無しに怒鳴ったわけじゃねーから」

「……うん」

「俺を嫌いになったりしないで」

「……なるわけ、ないよ」


回した腕に力を込めれば、背に回された手が返事のように俺のシャツを握る。


「はぁ、やっぱり僕はお邪魔みたいですね。先に行きます。ゆっくり食事してきてください」

「バニー!」

「なんですか?」

「……いや、何でもないわ」

「……変なおじさんですね。では、また後で」

「おう」


名無しはバニーが去ろうとしても、俺の胸に
顔を埋めたままだった。
バニーはしばらく名無しの後頭部を見つめていたが、俺と視線がぶつかると足早に去っていった。



ほんの少し。


優越感を感じた。




END

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