恋しい人 愛しい人





「……た、の」




「え?」

「……抱か、たの…虎徹、に」

「っ、!」

「…こて…つ、泥酔し、て…」




行きつけのバーに行くと見慣れた姿があった。
名無しは迷わず声をかけ、隣の席へ座り酒を注文した。


一人で飲んでるの珍しいね。
いつもネイサンとかといるのに。

俺だって一人になりたい時はあるんだよ。

なるほどね。
私もある。

お前も?

そっ!
今日も一人で飲みに来たんだけど、虎徹がいたからさ。

……。

どうしたの?

いやぁ、会ったのがお前で良かったなって思って。

一人で飲みたかった?

……。

さっきから何なの?

今日、さ。

ん?






命日なんだよ、あいつの。






「嬉しいかった……そんな日に“お前がいてくれて良かった”って、言って…」

「……」

「バーを出た後、酔い潰れた虎徹を部屋に送った」




もう、ちゃんと歩いてよ!
ベッドはすぐそこなんだから!

う、ん……。

……まったく。
よい、しょ!
じゃあ私帰るから。

あ、あぁ……あん、がと…。

鍵は郵便受けに入れておくからね。

うぅ…。

本当に大丈夫?
お水、持ってこようか?

……、……。

なに?
何て言っ…。






行くなよ、“―――”






「そのまま……」

「……」

「ずっと感じたかった虎徹の体温、愛撫、どんなに幸せだったか。だけどね、あの人、セックスの最中に、奥さんの名前を呼ぶの。目をつぶって、何も見ないで…!私で奥さんを感じてた!」

「名無しさん…」

「でも、ね……わた、し!拒みきれなか、た!だって、ずっと…!わたしは…!!」


その日を境に何度も体を重ねた。
お互い何も言わなかった。


「もういいですから!……もういい……」




“わたしはずっとあのひとをアイシテイルから”





「虎徹さんは馬鹿だ。大馬鹿だ」

「……ひっ、…うぅ…」

「こんな愛しい人に愛されるのに」


羨ましい。


「僕じゃ駄目ですか?」


羨ましい。


「あなたが愛しい。あなたに愛されたい」


あなたが欲しい。


「お互い、愛を求めてる」


正当?
そんなのクソクラエ。


「バー、ナビー…?」


アラーム音が鳴り響く。


「出動です。行けますか?」




手放したのは貴方ですよ、虎徹さん。






[ 5/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -