あなたにだけ教えてあげる





「名無しさん、着きましたよ。鍵はどこです?」




「……んぅ…」

「はぁ、……まったく」


彼女の住むマンションに着いても鍵がなければ中に入れない。
声を掛け、軽く揺すっても起きてくれないので、あまりしたくはないが彼女の鞄の中を漁った。
鍵はすぐ見つかった。

部屋は至ってシンプルで、白と黒を貴重にコーディネイトされていた。
寝室へ運び、ベッドの上に下ろす。


「僕は帰ります。起きたら…」

「もう、行くの?」

「えぇ、僕がここに居ちゃやばいでしょう?」

「なんで?」


そう言い、上目遣いで見つめてくる。

なんてこの人は無防備なんだ。
僕の理性を総動員して、襲い掛かりたい衝動を抑えているというのに。

起き上がっている彼女を布団の中へ戻し頭を撫でる。
彼女が甘えたい時は弱っている時なんだ。
そこに付け込むことはできない。


彼女自身で僕を選んでほしいから。




「名無しさん、言ってください。一体、何があったんです?」

「どうしてそう思うの?」

「いつものあなたと明らかに様子が違う」

「……」

「名無しさん!」


強く言っても頑なに首を横に振るだけ。


「わかりました。直接虎徹さんに聞きます」

「あっ…、だめ!」

「あなたが話してくれないのなら…」

「やめて!お願いだから!あの人には…!」

「…虎徹さんを庇うんですね」

「違うの、私が……わた、しが……」

「話してくれますね?」

「……」


枕に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
そっと背中をさすってやると、虫の鳴くような声が聞こえた。





「……た、の」

「え?」




「……抱か、たの…虎徹、に」





END


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