確かに君に恋をした
「またですか、あなたは」
誰もいないトレーニングルームの片隅で、埋まっている彼女。
何かあればいつもこの場所で声をひそめて泣いている。
「うるさいな」
「少し痩せたんじゃないですか?」
「痩せてない。トレーニング増やしただけ」
「自暴自棄になるのはやめてください。現場で迷惑がかかるのは僕たちなんですから」
「……」
「名無しさん?」
「うるさってば…」
「ちょっと、本当に大丈夫ですか?家まで送ります」
「………お願い」
「失礼します」
声を掛けてから彼女を横抱きにすると、手触りの良い髪が腕に触れる。
彼女の体はこんなに柔らかくて細いのに、僕と同じヒーローだなんて信じられない。
「寝てていいですよ。どうせ寝不足なんでしょ。着いたら起こしますから」
「…あり、が…と……」
そのまま意識を飛ばした彼女は、僕の胸に頭を預けた。
そしてすぐに心地好い息遣いが聞こえた。
僕の胸は彼女にとって安心できる場所なのだろうか。
本当にそうならば、いつだって貸してあげたい。
「あなたは酷い人だ。僕には泣き顔しか見せてくれない」
僕が見たいのは、あなたの笑顔だけなのに。
END
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