貴方に再び会えるならば、この命すら惜しくはないのに
特別なことなんて何もできない
「抱きしめてなんて言わないから、もっと強く手を握って」
お願い、お願い
「赤木さん、どこにも行かないでね」
「どうしたよ。急に」
「だって…すぐにどっか行っちゃうから」
「じゃあ今日はお前さんと居るとしようか」
「本当?嬉しい!」
繋いだ手の温かさに胸が熱くなる。並んで歩くとまるで親子みたいだけど、私は気にしない。赤木さんの優しい眼差しも煙草の香りも全部、好き。
「なんか旨いモンでも食うか」
一緒にご飯。普段の私なら絶対に行かないような高級なお店に入ろうとするから違う所にしましょうよ、と近所で美味しいと評判の小さなお蕎麦屋さんを教えてあげた。
「ああ、味が良いな」
「でしょう?気に入ってもらえて良かった」
どこだってなんだっていいの。貴方と一緒なら。
「お泊まりしたい」
やけに積極的じゃねえか、と笑いながら頷く赤木さんも結局付き合ってくれるから、ついワガママを言ってしまう。
「ねえ、赤木さん。私に何か用があったんですか?」
「…ん?いや、急になまえの顔が見たくなったんだ」
「ふふ、変なの」
嘘。すごく嬉しかった。だって、私も会いたいなって思ってたから。だけど朝、目覚めた私の隣にはもう彼の姿は無くて
「ありがとな」
テーブルにあった書き置きを手に取って字を指でなぞる。たったの五文字だけで私を置き去りにして行ってしまった。
でも知っていたの、ほんとうは。
もう、二度と会えないんだって
「好きなんです大好きなんです」
涙で滲んだ文字が霞む。胸が苦しくて張り裂けそうで、どうしたらいいかわからない。
「行かないで…お願い」
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