叶うならもう一度、愛してると言って



写真の中で微笑む二人

永遠なんていらないから。今、この時は、
この時だけは

【愛してる】

誓った愛に偽りはないけれど、気がつくと貴方はすぐに居なくなって忘れた頃にふらりと戻ってくる。でも、そんな自由な彼が私は大好きだった。たとえ誰と何をしていようとも帰る場所は私の元であれば良い、と。結婚してから長い年月を重ね、何も変わらない日々を過ごしていたあの日。いつもと違う顔で突然言い渡された別れの言葉が今でも心に深く突き刺さったまま取れずに胸の奥でじくじくと燻っている。

「なまえ、別れてくれねぇか」
「…いやです」

ぷい、とむくれた私が可笑しかったのか肩を揺らして笑う姿にますます怒りが込み上げる。真剣な話をしているのにこの人は何て不真面目なのだろう。

「いい加減にして下さい!しげるさんの気紛れにはもう付き合いきれません。別れたいならどうぞご自由に」
「ハハハ…ついに俺も愛想つかされたか。そりゃあそうだよなあ、こんな適当なヤツに今まで良く尽くしてくれたよ」

なまえ、ありがとうな

そう言って優しく抱き締めてくれた彼の温もりを私は生涯忘れないだろう。

お気に入りのスーツに鞄ひとつ、振り返る事なく出て行った姿に目頭が熱くなって玄関のドアが閉まった途端、堰を切ったように涙が流れて止まらなかった。私のどこがいけなかったの?どうすれば、どうしたら

泣いて泣いて、泣き明かしたけれど
結局答えは見つからなくて

本当の事を知ったのは別れてから数年経った時だった。何も告げずにさよならを決めた彼と何も知らずにそれを承諾した自分。今更真実を知った所でどうにもならないのに思い出す度に溢れて止まらない涙がまた私を弱くする。

「しげるさん…すごく嬉しそう」

写真の中で微笑む二人。もう二度と会えない貴方に、ひとつだけお願いがあるの。





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