狂おしいほど惹かれてく
※アカギ視点
***
勝負事の熱に比べたら男女の色恋なんてつまらないと思った。好きだの嫌いだの、そんなものはどうでもいい。けれど…
「アカギくん、何してるの?」
なまえに逢った俺は変わってしまった。他の女には無い独特な雰囲気と"雄"を疼かせるような艶やかさに心惹かれ、今もこうして彼女の気を引く事しか考えていないボンクラだ。
「何も。今から飲みに行こうかなって」
ふらりと立ち寄った飲み屋でまとわりついてきた女達を両手に連れてわざわざなまえに見せつける。既に千鳥足のホステスが騒ぎ立てて、早く早くと急かした。
「あらあら、今日は忙しそうね」
ゾッとする程の美しい顔でにこりと微笑む。まるで興味が無いと言わんばかりの視線の先に見ているのは、きっと俺じゃない。
「誰を見てるんだよ」
ギリギリと奥歯を噛み締めながら詰め寄る。胸の奥から咳き上げた嫉妬と独占欲が口から溢れだして止まらない。札束をポケットから取り出して女達に投げつけると察したのか青い顔で足早に立ち去ってゆく。その後ろ姿を見送ってからゆっくりとなまえに問い質した。
「ねえ、なまえは俺が他の女と遊んでもいいの?嫉妬しないの?」
俺の事、好き?
「ふふふ、質問ばかりでどうしようかな」
「はぐらかすなよ、ちゃんと答えろよ」
「わかったわ。好き、アカギくんが好き」
「…嘘だね」
「信じてくれないならいいわ。もう会わないから」
さよなら、と告げたなまえの手を取って思い切り抱き締めたら胸の奥がざわざわして彼女と重なる身体が熱い。
「ちゃんと俺を見ろよ…」
「見てるよ、赤木さん」
絞り出した声が優しい嘘に溶けて消えた。瞳を閉じた彼女にはもう、今の俺の姿は映らない。
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