白昼夢に攫われる



溢れ出す涙が頬を伝う。拭いても拭いても止めどなく流れ落ちるから「キリがないなぁ」と泣きながら笑った。

「赤木さん、聞いてますか」

あの夜、最期のお別れの日。
後から聞かされた私は急いで駆けつけたけれど、結局間に合わずに呆然とその姿を見送る事しか出来なかった。今でもまだ気持ちの整理がつかなくて、クローゼットに掛かる赤木さんのスーツを見る度に私は

「会いたい」

涙で視界が滲む。静かな嗚咽が部屋に響いて、その場に泣き崩れてしまった。

『なまえ、また泣いてんのか』

開け放たれた窓から風が吹き抜ける。包み込むように温かく、撫でるように優しく。

「赤木さん?」

ふと呼ばれた気がして、目の前にある白をそっと手繰り寄せて顔をうずめたら大好きな香りが鼻を擽る。まだ、忘れてないから大丈夫。

『お前さんは泣き虫だなあ』

笑いながら優しく頭を撫でる彼の温もりが心地よくて大好きだった。

「…赤木さんの所為ですよ」

スーツを握り締めたまま目を瞑ったらまた会える気がして、緩やかに視界を閉じた。




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