恐らくはただの嫉妬



トリップ夢。苦手な方はお戻り下さい

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何の因果か死んだはずのこの身は脳味噌の半数を占めていたであろう漫画の世界で再生したらしい。

「しかも若返ってるなんて」

本来よりも随分と若くなっていた身体はまだあどけなさを残すほど瑞々しい。容姿に関しては特に変わった所は無かったが、多少は修正されているのか見目は悪くないと自分でも思う。

「そしてこの強運」

やはりこの世界で生きていく為には必要不可欠な"強運"を手にした私は出逢うべくして彼の人と出逢う。私が最も愛していた【赤木しげる】に。

***

「こんな可愛いお嬢ちゃんが相手とはなぁ」

銜え煙草で対面に座る赤木がにやりとなまえを見る。目が合っただけで赤く染まる頬を隠すように視線を逸らすと、小さな声で「お願いします」と言った。

(ああ…本物の赤木さんだ。やっぱり素敵…)

代打ち勝負は赤木の勝利で呆気なく終わる。緊張と興奮で上の空だったなまえは勝負よりも目の前にいる赤木しげるに夢中で、赤木もまた彼女の纏う雰囲気から変わった女だと気になった。この日を境に二人は親交を深め、更に深い仲になるにはそう時間はかからなかった。元々勝負事以外に関心や執着心が薄い赤木だったが、彼なりになまえを可愛がってくれたし何処に行くのも一緒に連れて行った。

そんなある日

「あら、赤木さんじゃない」
「おめぇさんは…」
「やだ!忘れちゃったの?マミよ。昔の女で思い返してみて」
「覚えてねえな。最近物忘れが酷くてよ」
「ふふ、相変わらずね。久しぶりに会ったんだし良かったら一緒に飲まない?」
「あー、折角だけどなあ…連れが居るから帰るわ」
「連れ?」

遠く離れた所で立っていたなまえに赤木は手招きする。気づいてすぐに子犬みたいに走り寄ってくる少女を見てマミは訝しげに尋ねた。

「親戚の子?まさか、今の女とかじゃないわよね」
「まあ、特別に可愛がってるには違いねえ」
「まだ子供じゃない…趣味疑うわ」

頭の天辺から爪先まで、まるで品定めするようになまえを睨み付ける視線がチクチクと刺さって気分が悪い。

「はじめまして。みょうじなまえです」

ぺこりと頭を下げると赤木の陰に隠れるように引っ込んだ。

「可愛いだろ。娘みてえなモンさ」

にかっと笑う赤木をじっと見つめる少女の表情は固い。

(娘って…よく言うじゃない。その"娘"みたいな私に手を出したのは貴方ですけど?)

内心ムッとしていたなまえだったが悟られないようにそっと背中に顔をうずめる。その仕草がまた可愛くて、愛しそうに少女の頭を撫でて髪を梳く赤木の眼差しはとても温かい。

「じゃあ、これ、私の番号。後で連絡して」

ゆっくりと近づいて胸ポケットに名刺を差し込むと頬に口づけを落として立ち去ってゆく。

「来る時は"お子ちゃま"を置いて来てね?」
「わかった。また連絡するよ」

(くさい。年増女の下品な匂い…)

すれ違い様ふわりと漂う香水の匂いが鼻についてなかなか取れなかった。




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