意味を持たない僕らのために



遠雷の続き
裏。しげる夢

***

扇風機の生暖かい風が部屋を吹き抜ける。開け放たれた窓から聞こえる蝉の鳴き声、遠くで聞こえる風鈴の音、青く澄んだ空と真っ白な入道雲。カーテンが風に靡いて揺れる様をなまえは夢現で眺めていた。

「抵抗しないんだ?」

クク、と笑いながらはだけた胸元に唇を寄せて赤い痕を残す。ちりちりとした甘痒い痛みを受ける度に身体が熱を帯びて"はしたない"とわかっていても、もっと触れて欲しいと思ってしまう。

「しげる、くん」

艶っぽく己の名を呼ぶなまえは先程の溌剌とした少女ではなく、女の色気を含んでその先を強請るように見つめる。潤んだ瞳が伏し目がちに視線を逸らす仕草に初々しさを感じて可愛らしいな、と思った。

「なまえさん、初めてなんだろ」

全部教えてやるよ

「ねえ、キスしてもいい?」
「…うん…」

目を閉じながら唇を重ねる。軽く触れて、また口づけたら更に深く、激しく。

「舌出して」

薄く開いた唇から覗く赤い舌を絡め取ると柔らかな舌先に吸い付いて舐め上げる。角度を変えて貪るように続く口づけに息が苦しいと離れたなまえの口元から溢れた唾液がたらりと喉に垂れて淫靡に映った。

「フフ…なまえさんて可愛いね」

太股を撫でる手のひらが熱くて火傷しそうだ。慣れた手つきでするりと脱がされた下着が丸まって片足に残る。聞こえるのは二人の荒い吐息と衣擦れの音。

「すごい濡れてる」

薄い下生えを指で掻き分けて奥へと滑らせると触れていないのにもう充分過ぎる程に濡れていて、ぷっくりと膨らんだ突起を優しく押し潰しながら擦り上げた。

「やぁっ、あ、あッ」
「良く慣らしておかないと」

まだ何も受け入れた事の無いそこは指一本でさえ違和感を感じるほどの狭さで、ぎゅうぎゅうに締め付けてくる。二本、三本と増える質量に顔を顰めるなまえは不安だった。けれど不思議と嫌じゃなくて、怖い反面もっと知りたいとさえ思った。

「こういうのも知ってる?」

がばっ、と持ち上げられた両足がなまえの頭上までついたら無防備に晒された割れ目を舌先でなぞる。先程まで指で慣らしていた所為か少し舐めただけで溢れる愛液が尻肉を伝って畳に染み込んだ。

「ん、あッ、や、あぁっ」

赤い舌がちろちろと撫でる度になまえの身体がビクンと跳ね上がり、一番敏感な場所を特に念入りに舐め掬うと一際高い声で艶やかに鳴いた。

「じゃあ、次は俺のもしてよ」

くったりと放られた身体が荒い呼吸で上下に揺れる。半開きになったなまえの唇にはち切れんばかりに反り返ったしげる自身を捩じ込んで口内の感触を確かめると彼女の頭を両手で押さえてそのまま喉奥まで突っ込んだ。

「う、ぐッ!ん、ん」

苦しそうに涙を浮かべて銜える姿に興奮してより激しさを増す律動にもう我慢できそうにない。

「なまえさんっ、口に出すからッ」
「ん、んーっ!?」

熱い体液がびゅるりと飛び出して口いっぱいに広がる。鼻に抜ける匂いが青臭くて吐き出しそうになったなまえに「全部飲んで」と命令した。

ふるふると頭を横に振って出来ないと言っても鼻を摘まんで顎を持ち上げられたら無理矢理でも飲み込むしかなくて

「う、げほっ!ごほ」
「初めてなんだからいろいろ知っといたほうがいいでしょ」
「変な味…もうやめる…」
「フフ…まだ終わりじゃないだろ」

今射精したばかりなのに萎えていないそれはより硬度を増して、なまえの胎内に早く挿れろと急かす。

「い、痛っ、痛いよ、しげるくん、待って」
「大丈夫、大丈夫。力抜いて」

(初めての時は痛いって聞いてたけど、本当に痛いんだ)

痛みを紛らわせようと他人事のように考えてみたけれど自然と身体に力が入って逃げ腰になる。入り口を小突いただけでこんなに痛いなんて絶対無理だ、となまえは今更ながら後悔した。

「ほら、もう少しで全部入るよ」
「っ、はぁはぁ…」

ぎちぎちと肉壁を割くようになまえの中へと身体を沈める。無理矢理押し進めるとぷつり、と破れる感覚のあとですんなりと全部収まった。

「まだ痛い?」
「ん…ちょっとだけ、平気」
「少しずつ動かすから」

緩やかに動くだけで繋がった場所がじくじくと痛む。指を噛んで我慢するなまえはうっすらと涙を浮かべてじっと耐えていた。

「泣き叫ぶのも好きだけど必死に我慢してる顔もいいね」

にやりと笑って徐々に激しく腰を打ちつけると先程まであんなに痛かったはずのなまえは次第にもっともっと、と欲しがるようになった。身体が震えるほどの強烈な快感が押し寄せて止まらない。

「あっ、ダメ、やぁあ!」
「なまえさん気持ち良い?我慢しないでイッちゃいなよ」
「ん、イク、イッちゃう、あっ、あー」
「俺もイクから…っ」

肌がぶつかる乾いた音がぱつぱつと部屋に響いてギリギリまで引き抜いてから一際大きく打ちつけるとなまえの子宮口めがけて白濁の欲を吐精した。

***

「しげるくん。私のお礼、足りた?」
「もう充分にね」
「良かった。じゃあ、さよなら」
「ねえ、なまえさん」

恋人でもなく、ついさっき"お礼"と称して身体を重ねただけの関係の二人。約束なんてしたって無駄だと思う。けれど、

「また会おうよ」

そう言わずにはいられなかった。




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