ここで逢ったが運命



※逆トリ

***

温かい手のひら

柔らかな感触が額を覆う。今まで感じた事の無い、その優しい温もりにひどく安堵する。

(…夢か)

ずっとこのぬるま湯のような心地好い"夢"に浸かっていたいと思った。

「大丈夫かな…」

霞みかかった頭の中に響く女の声。

(誰だ?)

徐々に覚めていく感覚が少年の意識を押し上げる。ハッとして瞼を開けば心配そうに覗き込む、見知らぬ女と目が合った。

「…誰?」
「誰、って、それはこっちのセリフ」

小さな溜め息を吐いた女は名をみょうじなまえと言い、容姿は幼いが歴とした成人女性だ。

「赤木…しげるくん、13歳。中学生か〜」

いいなぁ、と昔を懐かしむような遠い目で呟いて話を続けた。

「で、何であんな所に倒れてたの」
「…あんな所、って」
「うちのマンションの隣にある公園」

帰宅途中、通りかかった時に植え込みの横で倒れていたらしい。

「警察に電話しようと思ったんだけど…死んだみたいに眠ってて全然起きないし、何だか訳アリなのかなって」
「それで」
「そのまま置いてく訳にもいかないでしょ?だから、うち目の前だったし…とりあえず連れて来たの」

どおりで
人の良さそうな顔をしてる

「放っておけば良かったのに」
「そんな事できないよ。でね、本当に今更なんだけど」

他意はないから、と言葉を濁して頬を染めた彼女はちらりとドアの向こうを見て「洗濯…しちゃったの」と。

「だって泥んこだったから、そのまま家に上げられなくて…ごめんね」

あっ!でも下着はそのままだよ、と慌てるなまえの顔はますます赤みを増して耳まで染めるから思わず吹き出してしまった。

「別にいいよ。見られて減るもんじゃないし」
「ちがっ、本当に見てない…」

布団を捲ると少し小さめのスウェット上下を着ていて、嗅いだ事の無い甘ったるい香りが鼻を擽る。

「何か…甘い匂い」
「あ、柔軟剤かな。嫌だったらごめんね」

太陽みたいに暖かい笑顔がしげるの警戒心を少しずつ解いていく。

「何があったか詳しくは聞かないけど、落ち着くまで居てもいいからね。しげるくん」

私どうせ日中仕事で家に居ないから

「なまえさん…ありが、と」

とりあえず悪い大人では無さそうだ。寧ろ騙されそうな位にお人好しの彼女の好意に今は甘える事にしようと思った。




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