どろどろの渦
「私、妊娠したんです」
もちろん、アカギさんの子ですよ
「本当…に?」
「嘘ついてどうするんですか。とりあえずなまえさんには伝えとかないと、って。奥様ですから」
じゃあ、帰りますね
呆然として見送るのも忘れてしまうくらいにショックだった。浮気、といえば聞こえが悪いけれどアカギにとっては悪気が無いのだ。ただしたいからする、その程度…
(そんな事、結婚する前からわかってたじゃない)
そう自分に言い聞かせていた日々。だから彼にどんな付き合いがあっても気にしないでいたのに。
もうすぐ夕暮れの茜色が黒く染まる。翳りゆくなまえの心を覆い尽くすのは気が狂うほどの嫉妬だけだった。
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