遠雷
初めての時ってさ、
女は結構忘れないんじゃないかな
誰と、とかは忘れてもね
どんな感じだったかは覚えてると思う。
例えば、痛かったとか緊張したとか
怖かったとか気持ち良かったとか
私は全部覚えてる
***
夏のある日
照りつける太陽、蝉の鳴き声、時折吹き抜ける熱い風。
学校の帰り道で会った白髪の少年は、この熱さの中ひとり涼やかな顔で歩いている。
(もしかしたら)
白い髪の少年がチキンランでタケルを病院送りにしたと人伝に聞いた私は思い切って声を掛けた。
「ねえ、君さ、ちょっといいかな」
「…アンタ誰」
「私はみょうじなまえ。あの"チキンラン"の事で」
「何、あいつらの知り合い?」
「そうじゃなくて、お礼が言いたかったというか」
前からタケルに言い寄られてて、断ったんだけどしつこかったから困ってたの。
「だから、ありがとう」
「…別にアンタの為にやった訳じゃないし」
「でも何かお礼させてよ」
「いらない」
「じゃあ、アイス買ってあげる。行こう」
「………………」
強引に連れて行って二人で店先の日陰に座る。冷たいアイスキャンデーを口に含むとあっという間に溶けて無くなった。
「名前教えて」
「…赤木しげる」
「私より年下だよね」
「だったら?」
「落ち着いてるなあ、って思って。私、こう見えても16歳だからね、しげるくん」
「クク…急に先輩面して変な女」
隣に座るしげるの笑い顔になまえはドキリとする。その大人びた表情が堪らなく色気を感じて、つい見惚れてしまった。
「なまえさん、アイス、垂れてる」
手首を伝って下へと流れる溶けたアイスがぽたりと地面に落ちて、無意識に濡れたその腕を舐め上げる赤い舌がちろりと覗く。
「熱いからすぐ溶けちゃうね」
「……………………」
黙ったままのしげるは食べ終えた棒を投げ捨てなまえの手を掴んで歩き出す。いきなりの事で驚く彼女を何も言わずに連れ出した。
***
「おっちゃん部屋借りるよ」
「おー、久しぶりだな」
暫く歩いて辿り着いたのは木造の一軒家。聞いた所、寝泊まりで時々空いてる部屋を間借りしているのだという。
「あのさ、どうして」
「…あんなアイスじゃ足りないでしょ」
「え?」
他にどんな、と問う間もなく気がついたら畳の上に組み敷かれて身動きが取れなくなっていた。
「ちょっと、や、やめて」
「別にお礼なんていらなかったけど、気が変わった」
にやりと笑ってなまえの首筋に顔をうずめる。ひやりとした唇が汗ばむ肌に強く吸い付いて赤い痕を残した。
「あっ…!」
擽ったくて胸がざわざわする。何とか逃げ出そうと足掻いてみたものの
「や、あぁ…っ」
逃げられる筈も無く
「ねえ、なまえさんて…初めて?」
濡れた瞳が狼狽える。唇をぎゅっと噛み締めて黙ったままなまえはこくりと頷いた。
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