君が怒るなら受け止めてあげる



君にあげる4

***

それはいつもと変わらない、ある日の事。

「アカギさんに渡しといて」
「………?」

突然訪ねてきた女がなまえに手渡したのは鍵。にこっと笑った顔は同性の自分が見ても綺麗だと思った。

「昨日部屋に忘れてったのよ。持っていてって言ったのに」
「…はあ」
「貴女、妹さん?」
「…まあ」
「じゃあお願いね。昨日は楽しかったって伝えて」
「…………」

玄関のドアを閉めてしん、と静まり返った部屋に立ち尽くす。手のひらに握られた鍵がやけに冷たく感じた。

***

「ただいま」
「おかえりなさい」

アカギに背を向けて台所で夕飯の支度をしているなまえの後ろ姿に違和感を覚えて、ふとテーブルを見ると鍵がひとつ置いてあった。

「何かね、昼間にすごく綺麗な女の人が来てね、その鍵をアカギさんに渡しといてって【妹】の私に頼んでいったの。それでね"昨日は楽しかった"って」
「…ああ、昨日の女か」
「あの人の家の合鍵だよね?」
「だろうな。いらないから捨てといて」
「いいんじゃない?それ持って行きなよ。もう帰って来なくてもいいから」

背を向けたまま言葉の端々に怒気を含むなまえの声は震えていた。必死に泣きそうになるのを堪えているようで

「なまえは俺が行ってもいいの」
「もう…疲れちゃったよ…」

私が何を言っても貴方を縛る事なんか出来ないし

「俺はなまえといたいんだけどな」
「じゃあどうして!?」
「昨日の女は代打ちした所の組長の娘。えらく気に入られてさ、皆で飯食っただけ」

疚しい事なんか何も無いから

「まだ怒ってる?」
「…知らない!」
「あらら、随分とおかんむりだ」

肩を揺らして笑うアカギは悪かった、と謝って膨れっ面のなまえを優しく抱き締める。未だ黙ったまま目を合わせようとしない彼女の不機嫌は暫く直りそうもない。




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