少しずつ縮まる距離に



※クリスマスのお話。しげる(13)逆トリ

***

赤と緑とキラキラで彩られている街並みが眩しくて思わず目を細めた。

手を繋いで歩く子供達は嬉しそうに家路へと急ぐ。夕暮れは、どこか寂しさと切なさを感じさせて胸が詰まりそうだった。こんな気持ちになったのは初めてで目の前の景色がじわりと滲む。吐き出した息が白く煙って鼻がツン、と痛くなったのは寒さの所為かそれとも

「しげるくん、どうしたの」

後ろから呼び止める声の主は名をみょうじなまえと言って、公園で倒れていたしげるを拾って世話をしていた。

「…別に。何だか街が騒がしいなって」
「あー、クリスマスだからね。そういうのは嫌い?」
「考えた事もないよ」
「サンタさんが良い子にプレゼントをくれるの」
「…じゃあ、俺は貰えないな」

クク、と肩を揺らして笑う姿はどこか大人びていてドキリとした。いつもそう。そうやって時折見せる仕草に"男"を感じさせてなまえはその度に自分を戒めるのだ。

(彼は13歳なのよ。私、何ドキドキしてるんだろう)

夜の帳が降りる頃、茜色が黒く染まる。路上に伸びた長い影がふたつ。

「寂しい?」
「………………」

少年はあまり多くを語らない。表情も、感情も、どこかに置いてきてしまった様に。初めて会った時、記憶喪失なのかと思ったけれどそれも違うと言われた。

『違う世界なのか』

世界が違う、なんてそんなお伽噺みたいな事を真顔で言う彼の埃まみれの学生服に透けるような白髪が印象的で。きっと訳ありなのかもとなまえの生来のお人好しが顔を出して、少なからずも戸惑っているであろうこの少年を落ち着くまで暫く家に住まわせる事にした。

「手、繋ごうよ」

差し出された手をじっと見る。アパートまであと少し。

「あったかいね」
「…うん」

黙って握られた手の温もりがじんわりと心に沁みて、何も言わなくても優しさは伝わるのだと知った。




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