バッドハッピーエンド



ふらりと寄った雀荘で会った女。

その美し過ぎる容姿はあどけない少女の様に無垢で。けれど何気ない仕草に匂い立つ程の"女"の色気を感じさせる、凛とした空気を纏った彼女の名はなまえと言った。年頃は16、すらりと伸びた手足に栗色の艶やかな髪を靡かせ、蠱惑的な瞳に見つめられるとまるで心の奥底を見透かされたように動けなくなる。

「ポン」

桜色のぷっくりと膨れた唇が小さく鳴く度に可愛らしい声が響き、白く滑らかな指先が牌に触れるその動作がやけに扇情的で

「ツモ」

場にいる男達は皆、彼女に見惚れてしまうのだった。

「またなまえちゃんの一人勝ちだよ」

参ったなあ、と負けた筈なのにどこか嬉しそうな男がアカギに話しかける。

「おや、兄ちゃんこの店初めてか?」
「……………」
「打つならなまえちゃんは止めといた方が良いぜ。あんな可愛い顔してべらぼうに強えんだ」
「…へぇ、」

男が退いた席に手を掛ける。

「お兄さん強いの?」
「クク…どうかな。少なくともアンタよりは、ね」
「…じゃあ始めましょ」

少しムッとした顔をして睨み付ける仕草も懐かない猫みたいでますます構いたくなった。

***

「…っ、どうして」
「もう賭けるモンが無いみたいだけど」
「悔しい…っ」
「じゃ、終いだな」
「待って!それじゃあ、わ、私を賭けるわ」
「は?」
「この身体を賭ける!私が負けたら…抱き捨てるなり売り飛ばすなり貴方の好きにすればいい。まだまっさらな身体よ?価値はそれなりにあるつもり」
「ふーん…意外と度胸あるんだ」

いいよ、と笑う男の瞳が鋭く光る。

(絶対に負けられない)

なまえは自分の身を賭けた背水の陣でアカギに挑んだ。

***

「じゃあ、好きにさせてもらおうか」
「………っ…わかった…私の負けよ」

その場にいた男共の溜め息があちこちで聞こえた気がした。まさかあの"なまえ"が負けるなどと誰一人思っていなかったからだ。この店のオーナーがその美しい容姿と麻雀の腕を見込んでなまえをスカウトし連れて来て以来、負けた所を見た事が無い。もし彼女を負かす事が出来たらその白磁の様な肌にひとつ、己の痕をつけてみたい…と邪な欲を密かに抱きながら通っていた常連客達を酷く落胆させた。

「とりあえず店、出ましょう」

オーナーに告げると鞄を持って早足で店を後にする。アカギはその後ろ姿に黙ってついて行くと駅から歩いて数分の路地裏に建つ真新しいアパートに着いた。カンカンと音を立てて階段を昇ると一番奥の角部屋がなまえの家らしく、鍵を開けて「どうぞ」と促す。

「ね、貴方の名前教えて」
「…赤木…しげる」
「アカギ、さん。麻雀強いんだ」
「まあね」
「何で私の勝負…受けてくれたの?」
「フフ…面白そうだったし、自分から身体差し出すなんて潔いヤツだな、って」

そういうの嫌いじゃない

クク…と笑ってポケットから取り出した煙草に火をつける。小さく煙を吐き出すと、ソワソワと落ち着かない素振りのなまえが今何を考えているのかが手に取る様にわかって笑いが込み上げてくる。

「じゃあ負け分、身体で払ってもらおうか」
「あ、っ…」
「初めてなんでしょ?教えてやるよ」

掴まれた腕が熱い。

触れられた肌がチリチリと熱を帯びる。頬を赤く染めて恥ずかしそうに視線を逸らすなまえに、妖しく微笑む男は首筋を指差して『脱いで』と言った。




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