たとえば、死が二人を別つまで



どこから来てどこに行くのか
帰る場所なんてない

根なし草なんだ

「それじゃあ私と一緒ですね」

少し寂しそうに笑うなまえの横顔がとても美しいと思った。死人の様に真っ白な肌に映える漆黒の艶髪がさらりと肩に落ちて風に揺れる。

「生まれた時も、死ぬ時も」

独りですもの、と呟いた。

なまえの他人を寄せ付けない雰囲気と触れ難い気高さが好きだった。初めてかもしれない…これほど女を求めたのは。酒も女も勝負の合間の休憩にしか過ぎないと思っていたし今でもそれは変わらない。

だからなまえの事も己にとっては只の休憩、気紛れだと。

「赤木さんもそう思うでしょう?」

静かに紡ぐ言葉にじわりと景色が滲む。その細くしなやかな指先が弱々しく求めるものは自分であって欲しいと年甲斐もなく強請った。

「ああ、でもたまには二人も悪くない」
「ふふ…そうですね」

差し出された腕を掴んで引き寄せる。小さく息を飲むなまえは黙ったまま胸に収まっていたが、少しして緩やかに顔を上げた彼女と視線が重なった。

「なまえ…泣くなよ」

潤んだ瞳が瞬きを数回。長い睫毛が濡れて目許を彩る。刹那、その薄く開いた唇に噛みつくように口づけた。

「ん、ん…」

特に抵抗もせずされるがまま、身を任せていたなまえは小さく震えていた。まるで何かに怯えているかのように。

「私…怖いんです」

これ以上貴方を望んでしまう事が

「離れたく、ない」

握り締めた指先が力を込めると赤く色づいた。ずっと独りで生きてきたなまえが最期に見せた我儘だった。

「馬鹿だな。離れたくねえのは俺のほうだよ」

折れるほど強く抱き締めてその温もりを確かめる。優しく頭を撫でると嬉しそうに目を細めた彼女の表情を死ぬまで忘れる事はないだろう。




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