はじめまして、あなたの娘です



※夢主は幼女

***

小さな指先が温もりを求めてさ迷う。何の躊躇いもなく目の前にあるその手に縋り付くと、離すまいと懸命に着いてくる。その姿がいじらしくて思わず笑ってしまった。

「わかった、わかった。逃げやしねぇから大丈夫だ」
「…ほんと?」
「ああ。こんなチビ置いて行けるかよ」

ホッとした様子で見上げると嬉しそうに笑ったその顔が母親に似ているな、と思った。

***

「よう、天、ひろ。久しぶりだな」
「赤木さん!」
「あれ?その子は」

ふらりと出ていっては忘れた頃にまた現れる赤木の姿は相変わらずだったが、ひとつ違うのはその後ろで隠れている小さな子供。見た所、4歳か5歳位の女の子で恥ずかしいのか顔をピタリと赤木にくっ付けて離れようとしない。

「こいつはな、俺の子だ」

ニカッと笑う屈託のない笑顔に嘘はなさそうだ。とすれば本当に、本当?

「ええぇーッ!ほ、本当に赤木さんの子供なんですか!?」

驚きを隠せないひろゆきと人懐っこい笑顔でにこやかに近づく天がやんわりと話しかけた。

「よお、チビちゃん。名前なんてーの?」
「…なまえ」
「なまえちゃんか。母ちゃんはどうした」
「…おかあさん、しんじゃった」
「……………そうか」
「おてがみにね、おとうさんのところにいきなさいって」
「成る程…で、赤木さん。承諾したって事は自分でも思い当たるんだろ?」
「…あー、まあ、それがよく覚えてねえんだよな」

ハハハ、と笑って誤魔化したが、初めてなまえに会った日…母親の写真だと渡された時に赤木は一瞬だけドキリとした。それは忘れられたくても忘れられない女だったから。

(あいつはイイ女だった)

歳は若かったけれど常に落ち着いていて物静かで、一緒に居ると居心地が良かったのを覚えている。たまに見せる年相応の可愛らしさや情事の際の普段からは想像もつかない妖艶さも好きだった。そして一番興味深かったのが未来を予知しているかの様な先読みの才能。街を歩けばすれ違う男共は振り返る程の美しさだったが、その才能や美貌は受け継がれているのだろうか。

「ていうか、失礼ですけど年齢的に子供というより孫に近いですよね」
「わはは!本当に失礼だぞ、ひろ」
「フフ…俺ぁまだまだ現役だよ」

煙草の煙を燻らせる中年男はふ、と足元に居るなまえを抱き上げた。例えばもし血が繋がってなくとも自分を頼ったのは何か理由があるのかも知れないと考えていた。

「あかぎさん」
「父ちゃんて呼んでもいいぞ?」
「…はずかしいから…」
「ハハ、そうか。なまえの好きにしたらいい」
「あかぎさん…たばこ、けむい」
「おっと、悪いな」
「赤木さん意外と子煩悩なんですね〜!」
「なまえ、俺んちの子になるか?母ちゃん二人いるぞ」

賑やかさに呆気に取られたなまえだったが、すぐに笑顔になる。それはまだぎこちなかったけれど自分に向けられている温かい優しさが嬉しくて

「わたし、あかぎさんとずっといっしょにいたい」
「ああ…遠慮しねぇで好きなだけ居な」

おかあさんはたったひとりだといっていた。
『もし私が死んだらお父さんを頼りなさい』とあったこともないひとをさがした。

「あえてよかった」

もしかしたら
あかぎさんとあったおかあさんも
こんなふうにおもったのかな

嬉しさとほんの少しの寂しさが綯い交ぜになって自然と涙が溢れてぽろりと零れた。




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