子供の時間を終わりにして



「ふふ…赤木さん、落ち着きませんか?」
「あー、いや…そうだな」

喫茶店でコーヒーを飲みながら煙草の煙を燻らせる中年男とテーブルを挟んで正面に座る若く美しい女。男のほうはまず服装からしてヤバそうな、ストライプ柄の真っ白なスーツと目立つ虎柄のシャツ、そして何よりその白髪がとても印象的だった。

「こんな俺のどこがいいんだか」
「全部、と言いたい所ですけどそうでもないんです」
「…へぇ」
「でも数えるとキリがないので、やめときます」
「親子ほども歳が離れてるってのによ…四十過ぎのオッサンじゃ物足りねぇだろ」
「物足りない…って…そんな事無いです。でも」

と言った後でなまえの表情がみるみる曇る。瞳に泪をいっぱい溜めて零れない様に我慢している様だ。

「…私だって来年二十歳ですよ?もう充分大人の女です。それとも私、そんなに魅力無いですか?」

だからいつまでたっても
相手にしてくれないんですね

「そうじゃねぇ。なまえは立派な"大人の女"だ。俺だってそりゃあ今まで我慢してたさ」
「…じゃあ、私のお願い…聞いてくれますか」
「そんなに熱く誘われりゃあ、な。わかったよ」

やれやれとばかりに短くなった煙草を灰皿に押し付け、深い溜め息をひとつ。

「言っとくけどな、先に言い出したのはなまえだからな。これからどうなっても知らねぇぞ?」

ニヤリと妖しく微笑む男の触れてはいけない一面を垣間見た気がして、なまえはドキリと胸が高鳴った。




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