今はただ、それだけで



「んー…」
「どうしたんですか?」
「何かなあ…最近目がボヤけてよ」

年だな、なんて眉間を摘まんで小さな溜め息をつく彼の人の後ろ姿がやけに寂しく見えて、思わず抱き着いてしまった。

「うおっ!」
「…年だなんて、赤木さんまだまだ現役でしょ」
「いやもうジジイだろ。なまえは若いからわからねえだろうけどな」
「だってもっと私の相手してもらわなくちゃ困ります」
「フフ…いいねえ。じゃ早速今から」

向かい合わせに抱き合うと赤木の手のひらがなまえの尻をやわやわと撫で始めた。

「っ、ちょっと赤木さん!そうじゃなくて麻雀の」
「嫌か」
「…嫌じゃ、ないです、けど」

そう言って恥ずかしそうに胸に顔を埋めると、鼻を擽る煙草の匂い。

(赤木さんの、)

好きです
本当は大好き、です

「もっと…して欲しい」

今、この瞬間。私を求めてくれている…そう思うと嬉しさで胸がいっぱいになって、心も身体も一々素直に反応するから赤木もなまえが可愛くて仕方がない。

「たっぷり可愛がってやるから、な?」

耳元で優しく囁かれる睦言。ぞくりとする様な"男"の色気を帯びた視線になまえの内の"女"が疼く。

「赤木さん、好き…」

求められれば差し出そう
この身も心も

溢れる想いに目頭がじん、と熱くなる。幾度身体を重ねたとしても何も変わらない二人の関係。その場限り、それっきり。次の約束なんてしないし出来ない。本当はもっと愛して欲しい…自分だけを見て、と。けれど、それは無理な話だと言う事はなまえも最初から分かっていたし、そんな我が儘で嫌われてしまうのが怖かった。

「…ああ、俺も…」

だからそれ以上はきっと、たぶん





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