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夏休みでも土日でも関係なく部活はある。部活動によっては夏休み中は、平日のみ活動するところもあるらしい。しかしうちのバスケ部は土日祝日関係なく練習が詰め込まれているし、なんなら休みの日にさえバスケをする連中ばっかりだ。
今日も朝から体育館でカントクにしごかれたばかりである。夏場の体育館は湿度も温度もやばい。それでもバスケを続けるのは、全国制覇を成せなかったら全裸告白という約束が嫌すぎるということもあるけれど、それ以上にバスケが好きだからだ。
そもそも、ここにいるやつらは一部を除いて好きな女すらいない、バスケバカばっかりだ。もちろん、俺もバスケが彼女。ハッ!バカはバカバカゴールが決まる!

「キタコレ···!」
「おーい早く昼にしようぜ」
「俺もう暑くて動けないよー。水戸部引っ張ってー」
「コガ···自分で歩けよ」
「ツッチーひでぇ!」

予めファイルに入れて体育館のすみに置いてあった書類を手に取る。改めて中身に目を通し、抜け漏れがないかチェックした。よし。

「俺合宿の書類出してくるから、先食べててくれ」
「おー伊月。いつもありがとなー」
「いってらー」

滴る汗をタオルで拭いながら足早に職員室に向かう。
外は暑いが、体育館内よりはマシに感じるし、きっと職員室の中はクーラーが効いて快適だ。

ハッ!クーラーが効きすぎてクラクラ!キタコレ!

こんなに素晴らしいネタを思いついたのに、手元にメモ帳が無いことが悔やまれる。提出書類の裏に書くわけにもいかないし、まあ体育館に戻るまでの間なら、忘れないだろ。

顧問の武田先生の席を思い浮かべながら、職員室のドアに手をかけた時だった。

誠凛のものではない、でも、どこかで見たことのある制服がイーグルアイにひっかかった。
見慣れない制服を着た女子生徒はちょうど奥の廊下から教師に連れられてこちらに向かっているらしい。中学生の見学か、高校生が編入試験か。どこかで見たことのある制服だけども、はたしてどこだったか。どちらにしても、微妙な時期だよな。
1学期目が終わった後の夏休み中盤に見学だなんて。

まあ関わることもないだろう。今度こそ職員室のドアを開けて、はっきりと入室の挨拶を口にしながらクーラーが効いた楽園に足を踏み入れた。

いつも通り、自分の席で茶をすすっている武田先生に書類を渡す。ぱっと見ただのおじいちゃん先生に見えるのだが、この武田先生、なかなかどうして食えない先生である。新設校だからこそ、過去の実績が無いのはどこの部活も同じだ。その中で、俺たちがインターハイ予選でベスト4という結果を残す前から予算をぶんどってきてくれていたらしい。おかげで合宿や練習試合にお金の心配なく行くことが出来ている。感謝してもしきれない。

「先生、よろしくお願いします」
「副主将、いつもお疲れ様。今日もみな頑張っているのかい?」
「はい。来年は絶対、インターハイ優勝したいんで!」
「そうかいそうかい。頑張ってるのぉ。今度みなに差し入れでも持っていこうかねえ」
「あざっす!」

武田先生に一例して、あっという間にまた蒸し暑い外へ。昼休憩が終わるまであと少しだ。急いで昼飯食べないと。
駆け足で体育館に戻るころには、見慣れない制服を着た女子生徒の事は、すっかり頭から抜け落ちていた。

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「そういや伊月聞いたか?お前らのクラス、転校生来るってさ」

夏休みも終盤に差し掛かったころ、昼休憩中に寄せられた土田の情報に「へえ」と相槌を打つ。ざっと記憶を洗ってみるが、聞いた覚えがない。さして興味がなかったからかもしれない。バスケ部入部希望者が来るなら話は別だが。

「日向知ってたか?」
「いや…知んねーけど」
「俺は女子が良い!かわいい子!!ついでに胸もあるとなお良い!!」
「おいコガ···カントクに殺られるぞ」

日向の忠告もむなしく、とびきりの笑顔を浮かべたカントクからコガは午後からの練習2倍を言い渡されていた。水戸部が心配そうにコガとカントクにちらちらもの言いたげな視線を送っているが、今回に関してはコガの自業自得だろう。

「まあ、小金井君の言うことは置いておくとして。バスケが好きで育てがいのあるヤツが転校してきてくれたらリコうれしーい」

未だにコガを海老反りさせながら怖いぐらいの猫なで声でカントクがそんなことを言うものだから、思わずまだ見ぬバスケプレイヤーな転校生に合唱したのは俺だけじゃないはずだ。
カントクの言うことはわかる。バスケ部としてはそんな転校生が来てくれたら万々歳だ。ただまあ、なんと言うか。

「カントクの願望はピンポイント過ぎてまだコガの言っていたパターンの方があり得るんじゃ···」
「何よ伊月君。こういうのはなんだっていいのよ!お遊びみたいなもんなんだから。あわよくば叶って欲しい願望を口にするのはタダだもの」
「じゃあなんで俺はトレーニング2倍なんだよ〜」
「え?3倍?」

コガは学習という言葉を知らないらしい。
涙を流して黙るコガを見て満足したのか、カントクが俺と日向の方を見た。

「で?日向君たちは無いの?こういう転校生ならいいなっていうの。あなたたちのクラスなんでしょ」
「俺は木吉みたいなやつじゃなければ誰でも···」
「そんなこと言うとメール届くぞ。木吉から」
「やめろよ!こえーわ!」

本気で携帯を鞄から引っ張り出してメールチェックをしだす日向を見て、笑いをこらえる。後で木吉に教えてやろうか。いや、木吉ならあり得そうだとコガも思ったからこそ、言ったんだろうけど。

「んで伊月は?」
「そうだな。俺は、俺のダジャレで笑ってくれる子が良いかなー」
「それは無理だろ」
「無理ね」
「現実見ろよ伊月」
「厳しいんじゃ···」
「お前らひどすぎだろ」



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