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25
夏休みが明けて1週間。部活のおかげで長期休みだからと生活リズムが崩れることもなく、いつもどおりリビングに向かう。母が用意してくれた朝ごはんに手を合わせ、今日の天気を告げるニュースキャスターの声をBGMに箸を運ぶ。

『てんびん座の貴方の運勢は最下位で最悪!突発的な行動は避け、静かに一日を過ごしましょう。無理をすると大切なものをなくしてしまうかも。それでもアクティブでいたいあなたには、クリアな15センチメートル定規が必須。ラッキーアイテムを持っていれば、後悔につながる行動を減らすことができるでしょう』

朝ごはんを食べ終わってお茶を飲んでいたら、なんとも不穏なセリフがおは朝から流れてきた。
おは朝にしてはラッキーアイテムが普通過ぎて、運勢の悪さと釣り合う気がしない。

「俊やばいじゃん。あんたてんびん座でしょ?」
「いや、ただの占いだろ」
「裏があるかもしれないじゃない。占いだけに!」
「姉さん…!それいただき!」

ドヤ顔をする姉を残して自分の食器を流しに持っていく。姉の言葉に自分の筆箱の中身を思い出す。
確か、入っているのは黒の定規で、透明なものでは無かったはずだ。何かあったところで、今年のインターハイ予選ほどひどいことになるわけはないだろうから、別にいいけれど。
身支度を整えて朝練に向かうべく家を出た。

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その不運は唐突に俺に降りかかった。確かに予兆はあった。おは朝の占いではてんびん座がランキングで一番ひどかった。だけどまさか、だれがこんなことを想像するだろうか。
鞄の中をもう一度探すが、見つからない。

「嘘だ···ああ、そんな···日向···聞いてくれ···」
「ああ?どうしたんだよ伊月」
「俺のネタ帳が!命の次に大切なネタ帳が無いんだ···!!」
「おーいさっさと体育館行くぞー」

落としたのか。まさか盗まれたのか?!誰かが俺のダジャレの才能を妬んで!!

ことの重要性を全く理解しようとしない日向他バスケ部の面々を置いて、部室を出る。
落としたとしたら、校門を過ぎたあたりでネタを閃いてメモをした時だろうか。朝練が始まるまで、まだ少しだけ時間がある。急いで見つけなければ。

グラウンドを通り過ぎる。前方に校門が見えてきたあたりで、先客がいることに気が付いた。
早歩きにペースを落として近づけば、その女子生徒は立ち止まって、少し硬い表情で睨むように校舎を見ているようだった。少しぎこちなく制服を身にまとっているように感じるのは、気のせいだろうか。

それにしても見覚えのない顔だった。新設校であるうちの高校は、今1学年しかなく生徒の数も限られている。同じクラスでなくとも、どこかで見かけたことがあってもおかしくない気はするのに。

しかしそんな疑問も、彼女の数歩先に探し求めていたネタ帳が落ちていることに気が付いてしまえば、どこかへ消えていった。良かった!見つけたぞ、俺のネタ帳。
ほっと一息ついたのもつかの間、何を思ったのか、その女子生徒が俺のノートを拾い上げ、表裏とひっくり返し始めた。
名前は書いていないはずだ。このままいくと落とし物として事務に届けられてしまうだろう。それよりも今ここで俺が名乗り出てノートを受け取った方が手っ取り早い。
さあ、彼女に声をかけよう。そう思って一歩踏み出した時だった。

あろうことかその女子生徒、ノートを開いて俺のネタを読み始めた。
嘘だろ···。人のもの、それもプライベートなものであることがわかるものを開くか?普通。

彼女はやけに熱心に読んでいるように見受けられた。ページをおくるペースが遅い。あれ?今のいいネタだったのでは?!キタコレ!!
けれどそのネタをメモするのにだって、あのノートが必要だ。予備のノートは部室にも教室にも置いてあるが、俺のダジャレの軌跡をたどれるようにするため、できれば今のノートを使い切ってから次のノートを使い始めたい。

女子生徒は俺のネタ帳を熱心に読んでいるあたり、ダジャレに興味はあるのだろう。だけど俺の大事なネタをパクられるかもしれない。
どこのクラスの子か知らないが、ノートを奪還しなければ!



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