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68
 文化祭初日のシフトは、昼過ぎまでがバスケ部で、夕方からクラスの写真館。予告なく現れた清志君とのお昼も、たませんを食べさせられた以外、特に大きな問題もなく終わった。

「午後からクラスのシフトだろ?」
「……良く覚えてるね?」
「お前が写メつきで送ってきたんだろーが」
「だけど、それ見て来てくれるなんて思ってなかったし……嬉しい」
「おう」

 ぐしゃぐしゃと髪を乱すようにして再び頭を撫でられる。「うし」、と掛け声とともに立ち上がった清志君を見上げれば、「いくぞ」と引っ張りあげられた。

「え、行くって、」
「お前のクラスの出し物。金落としてってやるよ」
「え、やっ、いいっ!」
「あ? んだよ」
「ほんと、いいから!」
「……おばさんから写真とってこいって言われてんだよ……心配かけてんの、わかってんだろ」

 それを言われたら、反論のしようがなかった。清志君がうちのクラスに来たら絶対騒がれるから嫌だ。
 だけど、両親にだってこれ以上心配かけたくはない。ただでさえ、心配をかけて転校という現状があるんだから。しぶしぶ頷けば、「ばーか」とやさしい声が降ってきた。

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教室に入った瞬間、女子からの視線が突き刺さるのがわかった。ほら、やっぱり。ざわざわと噂話をする声が聞こえる。その中でもひときわ鋭く、神崎さんの視線が刺さる。前の、体育の授業で私に敵意をあらわにしていた人。

「涼宮さん!! 誰そのイケメン!」
「あん?」
「えっと、」
「彼氏と写真?! なら涼宮さん描いてくれたラブ・パネルがいいよね?! どーぞどーぞ!! いやーまさかこんなイケメンを捕まえていたなんて! そりゃ伊月も霞むわー!」

 相変わらずのマシンガントークの津田さんに背中を押されるまま、清志君と私の描いたメルヘンチックなパネルの裏に押し込まれた。ていうかなに、ラブ・パネルって。
 ちらりと見上げた清志君は何を考えているのかわからない表情をしている。ごそごそと何かを探る様子を見せた清志君はポケットからスマホを取り出した。

「これで撮るってお願いできるんすか?」
「もちろん! あ、ちなみにチェキも有料で撮ってますよ〜。1枚150円、4枚で500円。どうですか?」
「じゃあ4枚」
「えっ」
「あ?」
「彼氏さん太っ腹ー!! まいどあり〜」

 4枚も撮るの?!
 思わず清志君を見上げれば、なにいってんだこいつという顔で見下ろされた。いや、お母さんに渡すなら1枚でいいじゃん……。
 私の言いたいことをわかっているはずなのに、清志君は代金とスマホを津田さんに渡した。
 ぐっと頭を押さえつけられて、背をかがめた清志君の顔が近くなる。少し長めのハニーブラウンの髪が顔にかかった。

「俺が出すんだから別にいいだろ」
「そう、だけど」
「撮んぞ」

 やや乱暴な手つきのまま、フォトパネルの穴に顔を押し付けられた。抗議しようと思ったのに、あまりにも優しい顔で清志君が私を見るから、文句も言えなくなってしまう。
 そんな表情をされたら、どうしたらいいかわからなくなる。
 これだから、イケメンっていやなんだよ。滅べイケメン。
 ぐりっと大きな手に頭を前に向かされる。少しの違和感を抱いたまま、前を向く。表情を作る暇もないまま、ぱしゃ、と音がして、津田さんがスマホを片手に「もう、」と頬を膨らませていた。

「ちょっと〜! 涼宮さん表情硬すぎ! 彼氏さん顔怖い!」
「千恵、笑えってよ」
「清志君だって!」
「もー! 後ろつかえてるんで撮っちゃいますよ?!」

 清志君と津田さんにせかされて、そのまま私の描いたパネルで順に写真を撮った。けれどクラスメイトや他の来場者からの視線を感じたままじゃ、どうしても緊張はとれなくて、うまく笑えた自身が無い。
 手際よく写真撮影を終えた津田さんからチェキを受け取った清志君の手元をのぞき込む。徐々に輪郭がはっきりし始めた。
 ……私も清志君も変な顔をしている。それなのに見上げた清志君は満足そうに笑っていて、それがどうしても不思議だった。

 ただ、そのあとお絵かきコーナーで慣れた手つきでチェキをデコる姿には、さすが、という感想しか出てこなかったけど。

「もういいでしょ? 清志君、」
「ん、今晩うちな。おふくろも楽しみにしてるし」
「えっ……うん」
「じゃあ残り頑張れよ」

 本日何度目になるのか、清志君に頭に手を置かれた。さすがに教室でそんなことをされるのは恥ずかしい。ただ、抵抗しようとした手は、その時教室のドアから入ってきた人を見た瞬間に、どこへやろうとしていたのか分からなくなった。

 涼やかな目元、濡れたような黒髪。……伊月、君。

 かすかに目を見開く伊月君と目が合う。ああ、こんな形でしか、ちゃんと伊月君と目を合わせられていない。


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