今日もいつも通りにデスクで与えられた仕事をこなす。我がチームのリーダーである渡邊さんは外に出ているためいないが、午後一番に会議があるためその用意もしておかなければいけない。効率的に仕事を片付けなければ、どんどん溜まっていってしまうから大変だ。とりあえず人数分コピーしてしまおうと会議用の書類を手に立ち上がった所で、オフィスの入り口付近で辺りを窺がう長身を発見した。あれは、


「鳳くん? どうしたのそんな所で」

「あ、樋野さん! お疲れ様です! お仕事中にすみません。研修担当の方が部署へ、今週の研修レポートを午後までに提出するように、と言われていたので」

「ああ、あれね」


鳳くんの手にしている紙の束を見て納得する。その日のスケジュールや研修範囲、具体的に何を習ったか、感想などを一日ごとに記入して一週間ごとに提出するのだ。そして研修担当の評価やそのレポートなどを使い、配属するチームを決めていく。今日の午後にある会議もそのレポートを確認しながら部長、部長代理、各チームリーダーと研修担当で新人たちの配属場所を少しずつ決めていくためのものだ。だから午後までに提出と新人たちに通達していたのである。しっかりと纏められているレポートを受け取り、そわそわと入り口に立ち尽くす彼を見上げる。


「そんなに遠慮しないで、入って来ても大丈夫だよ? 6月からは鳳くんもこの部署で働くんだから」

「はい。でも研修組は10分休憩だったので提出に来たんですが、普通ならまだ皆さん働いていらっしゃるんですよね。気づかずすみません」


そう言って頭を下げる鳳くん。う、うわぁ、なんて普通な子。普通な良い子! 誰とは言わないが、2名ほど衝撃的な再会を果たしてしまったせいで普通な反応に感動してしまった。うんうん、これが普通なんだよね。


「私たちだってパソコンを使うから休憩は少しずつ取ってるし、気にしなくていいんだよ。ちなみに切原くんと白石くんは?」

「えっ!? え、えと、す、すぐに! いや、午後までには絶対に提出に来ます!」

「………」

「す、すみません」

「いや、鳳くんが謝る事じゃないよ」


この様子から察するに、切原くんと白石くんのレポートはまだ完成していないのだろう。はぁ、と溜息をつくと、それを見た鳳くんが慌てて弁解をし始めた。


「あ、あの、白石、白石くんのレポートはもう出来上がってたんです。でも家でお笑い番組を観ていたら、コーヒーをレポートに噴いてしまったらしくて…」

「え、そこはツッコむべき?」

「朝見てみたら悲惨な状態で、今必死に書き写してるんです」

「そ、そう……」

「はい……」

「………」

「………」

「え、切原くんは?」

「えっ!? え、あ、あの、えっと、その、」

「…うん、ごめんね」


この子は嘘がつけない子なんだな。目の前で焦って身振り手振り必死に説明しようとするが、言葉の出てこない鳳くんをみてそう考える。白石くんは、まぁ、午後までに提出してくれればいいとして、切原くんは単純にレポートをサボっていたのだろう。そりゃあ鳳くんでも庇い切れないだろうさ。それでも頑張って切原くんを庇おうとする鳳くんが、とっても良い子に思えて仕方がない。いや、実際に良い子なんだろう。


「午後の提出までに間に合えば大丈夫だから。これは部長に提出しておくね」

「はい!」

「それとやっぱり新人だから部署には入りにくいかもしれないけど、次からは何かあったら私を呼んでくれればいいよ。初対面の人より話しかけやすいでしょ?」


そう鳳くんに言葉をかければ、ぱぁっと笑顔になり元気よく返事をする。こんなに大きな子なのに、何故だか可愛いと思えてしまうから不思議だ。しかし先ほどの感じからして、ああやって2人の尻拭いなんてしているんじゃないだろうな? なんだか鳳くんの未来が心配になりながらも彼の背を見送り、自分の仕事へと戻った。



2014/08/12 莉壱


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -