お得意様との商談を終えて帰社した私を待ち構えていたのは渡邉さんからの伝言で、今から明後日の会議に関する資料作成…ですと?時計を見れば、定刻まであと2時間。台本というか、話す内容は一応出来上がっているのでそれを参考にと指示されているのでまだましだけど…残業覚悟だわ。ぱらぱらとホチキス止めの大筋を捲って、何が必要かを把握してから3階にある資料庫へと足を向ける。
「うわわっ!」
「……。」
階段を下りて向かった資料庫の扉を一度開けて閉めてから、扉に額を当てて溜め息を吐く。見たくないもの見ちゃったというか、仕事が増えたというべきか…。いいや、仕方ない。一度閉めた扉をもう一度開ければ、ファイルの山に埋もれた白石くんの姿が合って、涙目で頭を抑えていた。
「取り敢えず、大丈夫?」
「あっ…樋野さん…!!」
「ほら、ファイルかき集めて。背表紙にナンバーふってあるから、順番通りに並べて」
「は、はいっ…」
大方、指定されたファイルを取り出そうとして一気に引っこ抜いたからこんな目に遭ったんだろうなぁ…。沖縄に行っちゃったアイツも同じことやらかしてたな、懐かしい。同じ棚で、同じファイルを毎年誰かしらにとってこさせるのに何か意味があるのかは分からないけど…。
黙々と二人でファイルを拾い集めて、並べかえて、一冊一冊きちんとしまっていけば、ものの数分で元の通りに収まった。
「ありがとうございます!」
「此処の資料の棚は一気に引っこ抜くと落ちてくるから、気を付けてね」
「ほんまおおきに!樋野さんってほんま俺らのヒーローですわ!」
「は?ヒーロー?」
「はい!この間切原くんとも話してたんですけど、困ってるときに颯爽と現れて助けてくれるってホンマにヒーローやーって!」
「いやいやいや、それはたまたまなだけであって、」
「俺たちの担当が樋野さんでよかったですわー」
にこにこと笑いながらそんなことを言う白石くんだけども、まだそんな担当になってから時間経ってないし、そもそもまだ研修してないしとか。色々突っ込みたいところは沢山あるんだけど、無邪気…とは言えないけども、毒気のない笑顔でにこにことそんなことを言われてしまえば言い返せないのも事実で。
まぁ変に嫌われてないだけ良いのかもしれないけど、でもたかだか一回くらい助けただけでヒーロー扱いされるとは…ヒーローというのは、渡邉さんのような人を言うわけでありまして、私なんかはヒーローでないんですけども。
「戻らなくていいの?」
「あっ!!!!」
すみません、ホンマ助かりました!
なんて言葉と共に頭を下げた白石くんがドタバタと研修の方に戻っていくのを見送ってから、息を吐いてから自分の目的を果たすために該当する棚へと向かう。
今年の新人はいい子なんだろうけど、何かほっとけないのも多いかもしれない。…研修担当から召喚されないことを祈るしかないけれど、何となく、彼らなら何事もなく、前半を折り返す気がする。
「…いい子なんだろうけどなぁ…」
切原くんと言い、白石くんと言い、ちょっとそそっかしいかな?
2014/08/10 みっこん
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