3年生の教室にて談笑していた通形、波動、天喰。


「あれ?あそこにいるの名前さんかな?」


 会話の途中、ふと窓を見た波動がそんなことを言った。


「今日、雨じゃなかった?」


 確かそのはずだ。波動に同意しながら、天喰の視線も同じように窓の外を向く。だが、確かに彼女のものだと一目見て分かる特徴的な傘が雨の中、門に向かって歩いていた。

「インターンかな?でも、荷物持ってないね。お買い物かな?1人で行くのかな?」


「確かに、1人だね」


 敵の襲撃を受け、学校は寮生活。1人で出歩く事はあまり許されていない。彼女の奔放っぷりは耳にしているし、実際、八斎會の事件で目にしている天喰は少し心配になった。


「……誰か呼んだ方が良いんじゃ」


「気になるの?行ってあげたら?」


 えっ、それはちょっと……。と天喰は俯き、視線をオロオロと泳がせた。


「彼女は強いから、俺が行くと迷惑に……。それに待ち合わせかも」


「聞いてみるのが一番だね!」


「えっと……」


 エリちゃんに会いに行くことの多い通形に付き添う形で教員寮へ行くことのある天喰は必然的にエリちゃんと仲の良い名前とも顔を合わせることがある。だが、顔を合わせるだけで、話したことがあるかといえばそうでもなかった。


「ちょっとそれは……」


 自分にはミリオのようなコミュニケーション能力はないし、気の利いたことも言えない。それに、彼女は自由な人だから、もしも、話したくない時に間違って話しかけてしまったら……!きっと返答は来ないだろう。そんな沈黙に耐えられる気がしない。


「また何か考えてる?前にチョコレートくれたでしょう?いい子だよ?」


「そ、それはそうだけど」


 天喰が初めて彼女を見たのはインターンの話をしに行った時。彼女は3年生に反論した切島の言葉を咎め、一年生でありながらミリオのパンチを唯一受けなかった。
 
 次に会ったのは、八斎會の件でヒーローが集められた時。彼女はプロヒーロー相手にも堂々と、堂々すぎるくらいにはっきりと意見を述べて、落ち込むミリオやデクを誰よりも早く激励していた。


 才能も、強さもあって、賢くて、自信満々で、遊び心を持つ余裕もある。それでいて、冷静。自分とは正反対だ。


「(それは二人にも言えることだけど)」


 通形や波動とはまた違った、”違い”。自分でもよく分からないそれが彼女を苦手とする最大の理由だった。


「どうして怖いの?」


「怖い……」


 波動の言葉に天喰はハッとした。

 
 そう、なのかもしれない。多分、俺は彼女が怖いんだ。ロックロックを見る目が冷たかったからだろうか。八斎會の本拠地に乗り込む時、意気揚々としていたからだろうか。綺麗に口角を上げて、悪戯っ子のような顔で”共犯“と言ったからだろうか。分からないけど、きっと、俺は彼女を分からないから怖い。


「分からない」


 窓の外を見る天喰の目に、あの番傘が映る。それは門の近くで閉じられると地面に先をつけた。こんな雨の中でどうして。天喰がそう疑問に思っていると、名前はそのまま少し進んだところで腰を折り、慌てた様子で現れた子供に傘の中へと引き入れられていった。


「何もしなくてよかったみたいだね……」


「弟かな?小さいね」


「どうだろう…」


 小さな傘に二人が入れるとは思えない。天喰が目を凝らすとその傘は少し、子供の方へと傾いていた。


「ほらね」


 次は自分から話しかけようか。


「が、頑張るよ」


「うん!」


 波動はにっこり笑った。


 ーーーーーーーー


 とは言ったものの、すぐに実行に移せる勇気がある訳もなく。天喰は進展の無い毎日を送っていた。


「という訳なんだ」


「なるほどね!」


 通形がグッと親指を立てる。


「(知ってたけど!)」


 実はすでに波動から聞いていた通形だったが、行動に移した親友の勇気を尊重し、黙っていたのである。


「話しかけようと近づいてみたけどなかなか」


「気配消してたもんね!彼女、ちょっと怪しんでたよ」


「気配を消したつもりは……」


 機会を伺うあまり至近距離で気配を消していた天喰の挙動を思い出し、どこか神妙な顔で首を振る通形。


「まぁまぁ。何はともあれすごい進歩じゃないか!」


 だが、そんな慰めは今の天喰には聞こえていない。


「背後で冷や汗垂らした男が存在感を消して立ってる……?ダメだ。もうダメだ」


 そんなの恐怖だ。きっと、不快だった筈だ。


「大丈夫大丈夫!彼女、全然人のこと気にしないから!多分、君が気にしてる事も向こうは一切、気にしてないと思うよ!」


「それはそれで……」


「むしろ、挙動不審な君の事、彼女ちょっと可愛いって言ってたよ。最初は不思議そうにしてたけど」


「か、可愛っ!?」


「話しかけてみるのさ!」

 
 ぐっと指を立てたミリオ。


「む、むしろ、」


 恥ずかしくて話せる気がしない。



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