夜の兎 | ナノ


▼ 8

「またきてるぞ!!いい加減にしてくれ!」


「天井が!!壁が!!地面が!!迫って来る!!圧殺されるぞ!!粗挽きハンバーグにされちまう!!」


 腹の空く言葉だが、実際はきっとそんな可愛いものではない。進む一行はジリ貧だった。誘導するような始めの動きとは違い、大きくうねる壁は自分達を殺そうと激しく迫っていたのだ。


「あっちも焦ってきてるみたいだね。さっきまでは時間稼ぎばっかだったのに突然、こっちを殺す気になった。薬で能力上げてるから体が保たないとかかなぁ?」


「それもあるだろうな」 


 何ともない顔でそう言った名前に相澤が返す。表情だけなら圧死寸前の人とは思えない。その緊張感の無さに自身の個性をフルで使うロックロックは「余裕ぶっこいてんじゃねぇよ」と苛立ちをぶつけた。

 迫るコンクリートの中で、ロックロックというヒーロー名通り、辺りをロックしながら少しずつ通路を確保して進む。だが、ロックできるのは数カ所まで。ロックされていない場所から伸びたコンクートは真っ直ぐに圧死せん、と伸びる。この場にいるパワー系は2人。その伸びた部分を緑谷、名前が壊すという布陣だ。


「このまらまじゃジリ貧だぞ!追い詰められる一方だ」


 殴って壊して殴って壊して。続くそれに少しずつ名前から笑顔が消える。


「あーーー、壁ばっかりうっとおしいなァ!緑谷、ちょっとどいて」


「えっ」

 
 良い加減にしろ、とばかりに声を上げた名前が目元のゴーグルを下げ、緑谷の襟首を無遠慮に掴み寄せる。当然、攻撃が止まり、正面の道が閉じる。

 せっかくの道が…、何してんだ!と眉を寄せるロックロックの静止も気にも止めず、名前は次の瞬間、両の掌を開いたまま腰に添え、前へと突き出した。掌底打ち、張り手に近い攻撃だ。途端、風が起き、ドゴォオオオオンという音と共に塞がった壁の真ん中に巨大な穴が開く。その穴は次に伸びてきていた壁も破壊し、一瞬、前に進める道が出来た。それはこの状況下では大きな一歩であった。


「今だ!行け行け行け!!」


 だがすぐに別のコンクリートが迫る。


「止めてたまるかァ!!」


 緑谷が叫んだその時、突然、コンクリートの一部が開き、広い空間へと投げ出された。は、と思ったその瞬間、メンバーを分断するように壁が落ちる。


「デク!」


 イレイザーが緑谷を引き寄せ、こちらは3人。ロックロックは1人、そしてナイトアイと警察に別れる。少しずつ殺す気か。名前は壁をじっと見た。


「分断…!?今更……」


「何かしらの作戦があるんでショ」


「おい!!皆!!無事か!!」


 壁の向こうからロックロックの声がする。


「来るぞ!!次の一手が!!」


 それに続くナイトアイの声。


「敵連…」


 その時、そんな言葉を残してロックロックの声が途絶えた。嫌な予感を感じた緑谷が壁を蹴り壊す。


「ニセモノが急に現れて襲ってきやがった!気をつけろ!新手だ!まだどこかに!!」


 壁の向こうにいたのはロックロックと傷を負ったロックロックの2人。倒れた方のロックロックには刀傷があった。個性でロックできるというのに。そう疑問に思った時、微かに濃い血の匂いが名前の鼻を掠めた。だが、目の前のロックロックに怪我は見えない。そして、ロックロックが緑谷を見た瞬間、少しだけ目を見開いたのに合わせて殺意に似たものが漏れたことを名前は見逃さなかった。それは相澤も同じである。


「緑谷、そっちは大丈夫か」


 ロックロックが腕を上げ、緑谷に手を伸ばす。名前は咄嗟に「わ」と声を上げる緑谷の腕を引いて自分の後ろに下げた。そしてそれに合わせてイレイザーの髪が逆立ち、ロックロックがどろりと溶ける。


「トガヒミコ!!?」


 現れたのは敵連合、渡我被身子だった。裸のままにっこりと嬉しそうに笑い、バックステップで距離を取るトガ。


「トガ!!そうだよトガです!覚えててくれた!!わああまた会えるなんて嬉しい!!嬉しいなァ出久くん!!」


「トガちゃんこんなところで会うなんて奇遇だね」


「奇遇です!!名前ちゃん!!」


「誰か殺されちゃったんだって?誰?」


「マグ姉です!!!」


「そっかー。ザンネンだね。んで、死柄木はその上で手を組んだんだ」

 
 また成長している。仲間を1人殺した相手との協力。敵連合は治崎よりも仲間が減るのは痛手だろうし、少し前なら絶対にしなかっただろう選択だ。

 治崎が敵連合を食うつもりなのか、互いになのかは分からないが、とはいえ仲良しこよしという訳では無さそう。

 突き出されたトガのナイフを名前が軽く手でいなせば、同じタイミングで捕縛布を彼女に巻きつけたイレイザーがそれを引く。


「嬉しいなァ!!」


「ここまでだ渡我被身子」


 だが、トガはその捕縛布を器用に使い、ご丁寧にイレイザーの背中を刺してから離れていった。


「先生!!?」


「大丈夫だ近づくな!!」


 イレイザーは駆け寄ろうとする緑谷を制す。すると、天井側のコンクリートが入中の個性によってズズズと動く音がした。


「帰っちゃうの?」


「いいえ!まだいますよ!!」


 にっこりと笑った彼女との間に壁が落ち、その姿は見えなくなった。


「先生!!」


「大丈夫だ。それよりロックロックの止血とナイフを拾っておけ。トガは…血を使うらしい」


 不安そうな緑谷の背中に一度手を乗せ、イレイザーヘッドの隣にしゃがむ。


「イレイザーさん、背中」


「ああ」


 連合と治崎との関係について考えているだろう彼の背中の傷を布で縛り、止血する。ぎゅっと締めればイレイザーから「っ」と小さく音が漏れた。


「お前な、締めすぎだろ」


「死柄木は下についたんじゃ無いと思うよイレイザーさん。トガちゃんが居たんだから多分他にも誰かいる。お互いに喰う機会でも伺ってるんじゃ無いかなぁ?」


「何でそう思う」


「組織ってそういうもんでしょ」


 喰うか喰われるか、敵も皆でヒーロー倒そうねなんて思っていないのだ。組織とはそういうもので、野望とはそうさせるもの。それに彼ら敵連合は借りがある。


「キェェェエエエエエエ!!」


 どこからか聞こえた奇声。そして大きく地面が動いた。まるで、洗濯機の中のように天井も壁も全てが元の場所を忘れて回る。そして、蠢くコンクリートの間、その少し先でトガとトゥワイスの姿が見えた。


「全員圧殺!!!!」


「やっぱ仲良くは無いみたいだね」


 声の主を探し、辺りを見回す。


「こういうのは大抵上でしょ」


 うねる壁は縦横無尽に動き、容赦なく飛んでくる。だが、不作為なだけで決定的なものはない。名前はそれをいくつも避け、飛び移りながら怪しげなところを探した。だが、声は至る所に反響し、壁は全て敵意を持って動いている。


「―――――!!!!!」


 何と言ってるのかも分からない程のブチギレ声が上から聞こえ、緑谷が飛んだ。「SMASH!!!」の掛け声と共に出された蹴り足が天井にハマる男の周辺のコンクリを壊し、その瞬間にイレイザーが個性を消す。コンクリートの塊が人の形を取り始め、そして真っ直ぐに落下した。


「てめぇらぁぁぁ!!」


「やっと見えた」


 動きを止めたコンクリートの足場を蹴り上げ、丸裸といっても過言でない男の元に跳ぶ。拳を握り締め、短く、そして軽く名前は拳を突き出した。拳は頬の形を変え、入中はぐるりと白目を剥く。


「っとと」


 緑谷は落ちていく入中を空中で受け止め、地面に優しく寝かせた。名前は放っておけばいいものを、と呟くと反対側の柱に着地し、しゃがんだままの姿勢で下を見下ろす。


「本体は弱っちいネ」


 降ってくる視線を感じ、顔を上げる。機嫌よく笑ったトガとトゥワイスがにこやかに手を振っていた。


「名前ちゃんバイバイです!!」


「バイバーイ」


 その瞬間、気付く。彼らはきっと入中を倒してほしくてわざと彼を怒らせたのだろう。自分達では入中に致命傷は与えられないから。ヒーローはまんまと2人の良いように動いたという訳だ。


「どうやら使われてしまった…ようだな。だがこれで迷宮は終わりだ」


 ナイトアイの言葉は残念そうでありながらも今の目的が連合ではないという事を再確認させるものだった。自分も下に降りよう、と柱から足を出す。その瞬間、覚えのある気配と殺意、そして何かが混じったような、だが確かな強者の存在を名前は感じ取った。


 ヒュンッ
  

「っは?」


 ドオオオオオオン


 突如として何かが現れ、空中にいた名前の姿が消える。そして、それに緑谷が気付いた時には大きな崩壊音がして、壁から砂埃が上がっていた。


「攻撃かっ!いや、それよりも」


「名前さん!!!」


 相澤の視界の中はもちろん、緑谷の視界の中にも見えない名前の姿。緑谷は無事を願って名前を呼んだ。


「はい?」


「ピンピンしてる!!?」


 崩れた壁と砂煙の中から無傷の名前がむくりと立ち上がる。緑谷は驚きつつも「良かった!!!!」と声を上げた。


「変だなァ…」


 名前はごきりと首を回した。


「アンタはここにはいないハズでショ」


 人影の見える砂煙を睨みつける。あり得ない、あり得ない筈だ。だが、パワーが、そして気配がそうと言っている。それと同時に湧き上がる高揚感。それに身を任せ、名前は一蹴りに跳び、傘を横に振った。土煙が晴れ、赤い髪が見える。


「こいつお前の知り合いかァ?素晴らしい肉体だな」


 自分とは違う空色の瞳に赤い髪、そして同じように白い肌。だが、口調も、そして強さも違う。記憶の中の昔馴染みと同じ風貌、同じ気配、だが、感じる異物感は目の前の人物が似て非なる別の誰かだと告げている。


「先に行って」


 包帯の巻いてある手持ち部分を握りしめ、傘を肩に乗せる。そして名前はぺっぺっと手を払った。


「そんなこと…!!」


 出来ない、とばかりに首を振る緑谷に一度も視線を向けずに、名前は目の前の人物を睨みつける。


「こいつは私の頭の中にいる人をコピーしてる。ソイツと全くおんなじ動きができるなら、死人無しには進めない。ここは私に任せて先に行って」


「おいおい」


 「そんなこと言うなよ。全員で協力した方が…」と笑う男の言葉は途中で途切れ、姿を消した。名前が間合いを詰め、足を地面につけるよりも前に数度腹部を殴り、そして、片足が着いたと同時にそれを軸足に顔面に向かって回し蹴りしたのだ。男は抵抗することも無く、吹き飛んだ。


「速い…」


「とっとと、行け!!!」


 悠長な3人にそう吐き捨て、名前がさらに男を追う。空中にいる無防備な体と距離を詰め、傘を下に振り下ろした。そして、地面へと押し付け、さらに力を込める。きっと生半可な攻撃では通らない、という予感があった。


「夜野!死ぬんじゃないぞ!!!」


「分かってる!!!」


 シュッ


 攻撃の気配に首を後ろに下げれば、拳が自分の目前を通り過ぎる。バク転で距離を取り、前に垂れた髪を後ろに流せば、ムクリと起き上がった誰かは一度口から血を吐き出し、にっこりと笑った。


「ハハ、凄いネ。お前」


「口調も引っ張られるの?」


「もちろん、ガワの強さにもよるが俺にも影響はある。こいつは友人か?残念だったネ。とりあえず子を作ろうよ。なんでかお前とヤリたいんだ」


「嫌」

 
 懐かしさを感じるやり取りだが、やはり違う。名前は資料を思い出した。


「(こいつは確か身成とかいう…)」


 相手の脳内にいる人間の体を見た目だけ一時的に借りることができるという個性。それを入中と同じく薬でブーストすることで肉体能力まで真似ることが出来た、というところか。昔馴染みの口調や性格が混じってるところを見ると、あいつの体は身成には大分、負担のようだ。

 いわばきっと絵の具のようなもの。少しだけ足せば変化は少ないが、多く、濃い色であるほど本体に影響を与える。ただ、さっきの殴り合いで分かったことが一つ。

 身成はパワーも瞬発力も自分と同程度あるというのに、動きは似ても似つかない。少し戦闘慣れしてるぐらいなもので、まるで荒削り。きっと体だけで経験の差まではコピーできないのだろう。


「フハッ、残念なのはあんただヨ。そいつは友人なんかじゃない。殴るのに抵抗なんかないんだよねぇ。まぁ、金輪際見ることない顔だとは思ってたけど」

 
 なんの策もなく距離を詰めてきた身成の顎を蹴り上げる。迫撃を加えようとジャンプして拳を出すと身成がそれを避け、くるりと回った足が己の顎下を蹴った。
 

「は、」


「んだ今の」


 今の動きは素人に毛が生えた物とは違う。それは本人にも予想外だったのか、身成は驚いたような表情をした。


「ガワのクセに主張の激しい体だなぁ。アンタとの縁か?」


 その後の動きは素人そのもの。顎を蹴られて飛び上がった体を空中で回転させ、脳天に踵落としをする。そしてその足を振り切り、身成が上体を折ったところで頭を鷲掴み、地面に叩きつけた。


「グアア」


 口の端から血を流した身成がふらりと立ち上がり、駆け出す。耐久力は確かに普通の人間では無い、がまだ人間の範囲は出ていない。低い姿勢で腹を殴れば、顔面に向かって鋭いストレートが返ってくる。避けようと力を入れるが、なぜか足はすぐに言うことを聞こうとしなかった。


「……?」


 稀に入る別人の動きはまるで2人を相手にしているような気分だ。調子が崩される。グッと足に力を込めて、拳を顔面で受け止めれば、口の中で肉の切れる音がした。


 ブツッ


 だが、骨を断つには肉を食わせてから。腕が伸びたその時を狙い、傘で目の前の胸を突く。身成の体は壁に向かって真っ直ぐに吹き飛んだ。


「弱いなァ。カケラも使いこなせてないよその体。というか体だけの癖に喧嘩売ってくるって何。聞こえてんのそいつ。頭に血登ってばっかだとすぐハゲになるよ」
 

「ああ、もう確定してたネ。なら大事にした方がいいんじゃない?」


 ブッと血を吐き出せば、壁際で崩れ落ちていた身成の体がバネのように跳ねる。そして一蹴りで距離を詰めてきた身成、いや昔馴染みの振りかぶった拳を掌で受け止めた。


「あ??何だ、この体っ言うこと聞かねぇ」


「ハゲるの気にしてたもんねぇ」


 真っ直ぐ来る拳の腕を殴っていなせし、軌道を変えた横殴りの拳を上から叩き落とす。そして蹴りのために上がる足を、上がり切る前に太ももを踏んで落とす。反応の遅い体が言うことを聞くギリギリ。そんな小さな動きで抑え込む。


「フンッ!!」


 そうして攻撃手段の無くなった無防備な頭に向けて自分の頭を後ろに下げ、思い切り前に突き出した。


「ぐあッ」


 フラつき、膝をつく身成。


「体だけ強くても私には勝てないよ」


「………ハ、ハハハハ、ハハハハ」


 俯いたまま動きを止めた身成が突然、笑い出す。頭打っておかしくなったか?と名前が一度、首を傾げた時、身成は勢いよく顔を上げた。

 笑顔を浮かべた身成のかち割れた頭からは血が垂れ、瞳孔の開いた目は焦点が合わないまま揺れている。タガが外れていた。


「渇く、渇く、オマエ、強いナ」


「夜兎の体は初めてだもんね。刺激しすぎちゃったかな」


 身成が地面を蹴る。さっきよりもスピードが速い。背後に回った身成が首目がけて落とした手刀を避け、続く蹴りを腕でガードし、そのまま足を横腹の横で抱えるように持つ。そしてガラ空きの横腹を蹴った。そして、体制を崩したところで顎下に掌底を打ち込み、足を抱えていた腕を離して後ろ回し蹴り。壁に叩きつけたところで、さらにもう一度飛び蹴りで迫撃を加えた。


「ああああああ」


 骨は何本かどころではないほどには折れている筈だが、身成は攻撃なんてされてないようにそのままの姿勢で拳を振った。普通なら痛みで躊躇し、生まれるはずのタイムラグが無い重い一撃が腹部に入る。衝撃を逃すためにすぐさま後ろに跳んで距離を取ったが、骨が軋んだ。


「―――――っつぁ!!流石、のパワー。今ので肋骨折れたわ」


「ハハッ、アハハッ」


 全く動きの鈍くならない身成。アドレナリンでも出ているのか、本能に呑まれているからなのか、痛みを感じていないんだろう。殺す気は無いとはいえ、このままじゃ止められない。動けない程度には傷を負わせる必要がある。仕方ない。名前は両足を前後に開き、体を後ろに傾け、ふっと短く息を吐きながら構えた。


「来なよ」


 手刀を構える身成。次の瞬間、2人の伸びた腕が互いに当たり、そして逸れた。


「アンタになら仕方ないよね」


 身成の逸れた手が横腹を貫いた。片手でその手を掴み、ぐっと力を込める。血は垂れているが、急所は外せたから別にいい。動きの取れない身成の腹に同じように自分も腕を刺す。もちろん急所は外して。


「餞別ネ」


「ガッ、ハ」


 とうとう首をがくんと落とした身成の腹から腕を抜き、自分の片腹からヤツの腕を抜く。ポタポタと互いの血が地面に落ちた。この血は人間か、それとも夜兎のものか。血が足りないからなのか名前はそんな事を考えた。


「あー、止血しよ……」


「うう、あぁ…」


「嘘でしょ?」


 自分達ってこんなバケモノじみた耐久力なのか、と他人事のように考えながら名前はよろよろと立ち上がる身成を見つめる。たしかに自分の脳内にいる男と似ていた。だが、やはり違う。


「辛そうな顔」


 悲痛に顔を歪めるなんて、彼は私には見せなかった。


「……仕方ない。かわいそうなあんたの体に今、一番効くものをあげる。そしたらそのガワも剥がれるよね」


 拳を握り込み、身成の懐へと入り込む。そして鳩尾目掛け、名前は下から拳を振り上げた。


「うぐっ、」


 下に降りた分、上に向かって飛ばす。身成の体は宙を浮き、天井を抜け、瓦礫を落としながらさらに上へと飛んだ。崩壊音が何度か一定の間で聞こえ、次第に地下にはないはずの日の光が入り込む。ゴーグルを付けて、見上げれば身成の体は青い空の中にあった。


「あ、あ…あああ……」


 日光に当たり、白い肌が陶器のようにパリパリと割れる。そして重力に従い落ちていく。地下からジャンプ一つで空へと跳び上がった名前はカケラをこぼしながら落下する身成の体を抱き止めると、視線を腕の中に向けた。脱力した身成の姿はすでに自身の知ったものではなくなっていた。


「やり過ぎた……」



 

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