準備期間
10 四葉Side


男を連れながら女性の元へ戻ると、女性の他に警察が2人いた。
女性は私達に気づくと「あっ」と声を上げる。その声に反応した警察の2人が、私と明に視線を向けた。
私も明も警察を呼んでいないから、女性が呼んでくれたのだろうか。
早速、奪い返したトートバッグを女性に手渡す。トートバッグを受け取った女性は、バッグの中を確認した。



「ある! 全部! おおきに! ほんまおおきに!」



お礼を言いながら、涙目で何度も頭を下げる女性。いえいえそんな。
彼女は「この子体弱いから、母子手帳が必要不可欠やねん」と、腕に抱えている赤ちゃんに微笑みかけながら言う。
赤ちゃんはお母さんの笑顔が嬉しいのか、「あー」と声を出して笑った。可愛い。



「その人がひったくり犯?」
「あ、はい」
「よう捕まえたなあ」
「楽勝ですよ」



警察と明の会話が聞こえ、明達に顔を向ける。
男は既に手錠をかけられていて、警察が男を逃がさないように腕を掴んでいた。
居心地が悪そうに視線を落としている男だが、自分が招いた種だろ、と思ってしまった。そんな顔するなら最初からしなきゃ良いのに。
そんなことを思っていると、後ろから肩を掴まれた。近づく気配には分かっていたが、まさか肩を掴まれるとは。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはオサムちゃんの姿が。しかし、オサムちゃんは私は見ておらず、警察の人達に視線を向けている。



「こいつらが何かしましたか!?」



わ、オサムちゃんが敬語使ってる。
なんて呑気に思っていると、警察の人達も明もオサムちゃんに顔を向けた。
何やら慌てている様子のオサムちゃんに、明は「あ、オサムちゃん。どうしたの?」とオサムちゃんに声をかける。
オサムちゃんは「どうしたもこうしたもあらへん!」と怒ると、再び警察に視線を戻す。え、どういうこと?
困惑して明に視線を向けるが、明も訳が分からないようで、視線が合っても首を傾げられた。



「な、なんや犯罪でもしたんでっしゃろか……!」



うおーい、そういうことかーい。
思わず呆れていると、警察の人が「ちゃうちゃう」と苦笑しながら否定してくれた。
その瞬間、オサムちゃんは「へっ?」と気の抜けたようなあほ面を見せる。

女性がひったくりにあったこと。逃走した男を明と私とで追いかけ、捕まえたこと。

警察の人が事情を説明する内に、オサムちゃんの表情が笑みを浮かべていく。
大方、警察と一緒に居る私達を見て、なにかやらかした、と思ったのだろう。心外だが、一連を知らなければそう思われても無理はない。
オサムちゃんに分かるように、ジト、と睨むと、オサムちゃんは「あはは……」と曖昧に苦笑した。



「あ、俺、渡邊オサムいいますー! 2人が通っとる四天宝寺高で男子テニス部の顧問しとりますー!」



話題を逸らして誤魔化そうとしているのか、オサムちゃんは警察の人達に頭を下げる。いや、なんで自己紹介してるの?



「え、2人とも学生なんや。若いなあ」
「四天宝寺高ね。名前も教えてくれる?」



警察の2人の言葉に、私と明は視線を合わせる。
これは、学校に連絡がいく感じかな? ただでさえ変な転入生ってことで目立ってるのに、これ以上目立ちたくはないなあ。
お礼は言われたし、これ以上は望まない。全校生徒の前で表彰されたら、たまったもんじゃないしね。
逃げたい、と矢羽音で明に伝えると、明も同意見のようで軽く頷いた。よし、逃げるぞ!
オサムちゃんの腕を掴むと、オサムちゃんは「ん?」と私を見下ろした。オサムちゃん、覚悟してね。

「お礼は充分ですから!」と言って走り出す明に続き、私もオサムちゃんの腕を引っ張りながら走り出す。
警察の「あっ! ちょっと!?」と言う困惑の声が聞こえてきたが、追いかけてくる様子はない。

少し離れた場所で走りを止めると、オサムちゃんの息が凄く乱れていることに気づく。
「酸欠で殺す気か!」と怒られてしまったが、私と明はなんとなく面白く感じてしまって笑い合った。

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