準備期間
09 明Side


男の姿は視界に入っている。
けど、休日で人が多いからか、なかなか追いつけることが出来ない。
後ろにいる四葉も、人の波をかき分けて追いかけるのに苦労しているのか、私のところまで追いつけていない。
もう! こうなったら強行突破に出てやろうか!
近くにあるお店の室外機に飛び乗る。そして次は、自動販売機の上へ飛び移った。
「えっ、ちょ、」と言う四葉の声が聞こえたが、こうするしか男に追いつけない。周りの視線が痛いけど、腹くくれ、私!



「四葉! 挟み撃ちにするよ!」



後ろの方にいる四葉に言えば、四葉は「了解!」と言うと、人の波から逸れた。
そして、近くにある川の欄干に飛び乗り、その上を辿るように走る。あのまま行けば、私よりも先に男に辿り着けるだろう。

私は他に飛び移れる場所がないか周囲を見渡す。
やっぱり都会ということで、飛び移れる場所は少ないらしい。あるとしても、看板くらい。
兵庫県だったらこっそり民家の屋根を走れるのに、大阪じゃ地元の人達や観光客の人達の目がひしひしと伝わってくる。
……面白がって動画取られる前に動かないと。



「よっ、と」



看板しかないなら、看板を伝って行くしかない。
幸い近くにいる人達の視線しか感じないから、この場に全員に見られているわけではないから、さっさと済ませてしまおう。
看板の上に飛び移ったら、また次の看板の上へ。これを繰り返していると、後ろを振り返りながら歩く男の姿が見えてきた。
すぐ近くに居るのも知らずに、油断しちゃって。

川の欄干の上を走る四葉が男を追い越す。
男が四葉の姿に気づき、慌てて逃げようとするが、男の向かう先に四葉が飛び降りた。
それを見計らって私も男の背後に飛び降りると、男は後ろに逃げようとしていたらしく、振り返り、私の姿を見て驚きの表情を浮かべる。



「な、なんやねん、ワレェ!」
「は? それはこっちのセリフなんだけど」



なに人様の物を盗んでんの。
男は諦めていないのか、私達を女子高生だからとナメているのか、あろうことか私にタックルをしようとしてきた。
当然、私はそれをいとも簡単にかわし、男の足に自分の足を引っかける。
地面に倒れた衝撃で、男は「ぶへえ!」と変な声を出した。何やってんだ、この人。
思わず呆れていると、四葉が男に近寄り、男が持っている花柄のトートバッグを奪う。



「はい立ってー。警察行くよー」



私は男の腕を掴んで無理矢理立たせる。
男はじたばたと反抗するが、ぐぐぐ、と腕を掴む手に力を込めると「いでで!」と言って、男は大人しくなった。
さて、コイツを警察に届けて……、いや、まずはさっきの女性にトートバッグ返さないと。

何があったんだ、と私達を見ている周囲の人達に「お騒がせしました」と笑いかけ、私と四葉は来た道を戻った。

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