準備期間
06 財前Side


久々知明先輩。竹谷四葉先輩。
1ヵ月程前、県外から3ヵ月という期限付きで転入した2人の先輩は、俺の学年でも有名になった。
そんな2人が、俺が所属している男子テニス部にやってきた。合宿にマネージャーとして参加するとかで。
関わる気無いし、正直どうでも良かったが、たった数分、白石部長と監督に教わっただけで仕事をこなす姿は素直に驚いた。
理解力が早いのか。容量が良いのか。2日目にして、何も聞かずにそれぞれ動いている。



「なあ白石ー、今日も千歳来ぇへんのー?」



ふいに聞こえてきた金太郎の声。
声のした方を見ると、頭の後ろで腕を組んだ金太郎と、金太郎の言葉に苦笑する白石部長の姿があった。
千歳先輩が来んのはいつものことやん。なんて思いながらも、首にかけたタオルで汗を拭く。
金太郎の言葉が聞こえたのか、近くにいた久々知先輩と竹谷先輩が、2人に歩み寄った。



「千歳君、今日も来てないんだね。私いつ自己紹介しようか?」



あの先輩が合宿に参加するのかどうかも怪しいけど。
久々知先輩の言葉に、白石部長は「せやったなあ」と顎に手を当てる。考え事でもしとるんやろか。
しかし、白石部長曰く、千歳先輩にスマホのアプリでメッセージを送っても、既読がつかないらしい。
一応学校には来ているものの、千歳先輩は教室にも部活にも、あまり顔を出さない。
よく退学にならへんなあ、と思うけど、そこらへんはギリギリ上手いことやっとるんやろ。

「合宿、皆で行きたいわ……」と、しょんぼりした表情で言う金太郎は、いつもと違って元気がない。
そんな金太郎の反応が予想外だったのか、白石部長は「金ちゃん……」と言いながら困惑している。



「よし分かった! 私が探してくる!」
「はっ!?」
「顔なら1回見かけたことあるし」



名案! とでもいうかのように満面の笑みを浮かべる久々知先輩に対し、竹谷先輩は動揺している。
白石部長が「せやけど久々知さんに悪いわ」と言うものの、久々知先輩は「いいや」と首を横に振る。



「私も早いとこ自己紹介済ませておきたいんだよね」



じゃないといつまで経っても千歳君、私のこと知らなさそうじゃん?
そう言う久々知先輩に、確かに、と思った。千歳先輩なら有り得そう。
白石部長は思わず苦笑しているが、金太郎はぱあっと満面の笑顔で「おおきに!」と久々知先輩にお礼を言った。
久々知先輩は金太郎にニッと笑顔を見せると、「行ってくる!」と言って颯爽と走り出す。
謙也さん顔負けの速さの久々知先輩は、あっという間に小さくなっていってしまった。



「苦労かけっぱなしやなあ」
「気にしなくて良いよ。白石君、もうすぐ試合でしょ。行きな?」



竹谷先輩の言葉に、白石部長は「おおきに」とお礼を言うと、コートへと向かった。
残った金太郎に、竹谷先輩は「遠山君は1年だから筋トレね」と声をかけ、金太郎と2人で集まっている1年生の方へと行った。
俺はもうちょっと休憩してよーっと。

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