準備期間
03 謙也Side


「オサムちゃん! これで合ってるー!?」
「合うとるでー!」

「オサムちゃーん、カメラの充電器どこー?」
「案内するわー!」



今日が初日とは思えない程、久々知さんも竹谷さんも覚えるのが早い。
隣に居る白石も「覚えるん早いなあ」と呟いている。
もしかして大川学園でもマネージャーやってたんやろうか。それなら納得やけど。
ちゅーか、いつの間に”オサムちゃん”呼びやねん! 羨ましいっちゅー話や!
ぐぬぬ、と下唇を噛んでいると、白石に「何怖い顔しとんねん、謙也」と引かれてしまったが、今はそれどころではない。



「俺も! 女子に! ”ちゃん”付けされたい!」
「先輩キモいっスわ」



やかましいわ財前!



「ほな呼んであげる! 謙也ちゃん!」



そういうことちゃうねん小春!



「小春を狙うなや謙也ァ!」



狙ってへんわユウジィ!
俺はただ女子にモテたいだけなんや! チヤホヤされたいんや! いつも”良い人止まり”って言われるから!
白石は俺達のやり取りに苦笑している。このモテ優男め。

ふと久々知さんに視線を向けると、俺の視線を感じたのか、久々知さんも俺に視線を向けた。
俺は目が合って驚くが、久々知さんは笑ってこちらに手を振ってくれる。ほ、惚れてまうやろー!
俺も手を振り返そうかと思ったが、それよりも先に、久々知さんはストップウォッチを持って走り出してしまう。
あっ……。と思いながら彼女の行く先を見ていると、走り込みを始める1年生達の輪に入って行った。
1年生の今日のメニュー内には30分間完走があったはずだし、その時間を計るんだろう。



「かわええなあ、明ちゃん」
「ほんまやなあ」



小春の言葉に返事をする。

次に竹谷さんに視線を向けると、彼女は2年生の試合をビデオカメラで撮影していた。
携帯充電器でビデオカメラを充電しながら使っているらしい。
竹谷さんも俺の視線にすぐに気づき、こちらに顔を向ける。久々知さんも竹谷さんも気づくん早い。
「なに?」と口パクで聞かれ、何も考えていなかった俺は、とりあえずニカッと笑っておく。
竹谷さんは薄っすら笑みを浮かべると、再びビデオカメラの画面を見た。



「四葉ちゃんもかわええなあ」
「ほんまやなあ」



小春の言葉に再び返事をする。
「女やったら誰でもええんか」と言う財前の呟きが聞こえたが、無視。
女の子をかわええって思うくらいええやろ! 彼女おらんのやし! ……ぐすん。

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