◆其の八

鐘の音が鳴り、宝探しは終了となった。
最後まで誰とも会うことなく無事に宝を守りきった私とユキちゃんは、再び校庭に向かう。
校庭に着くと、次々と生徒達が集まってきているのが分かる。
嬉しそうな表情を浮かべる者もいれば、ガッカリな表情を浮かべる者もいて、顔を見れば大体の結果が見て取れる。



「ちか、どうだった?」



後ろから話しかけられ、振り向くと八坂が居た。
八坂の言葉に、私はニヤリと不敵に笑みを浮かべながら、半年間食費無料券を見せる。
八坂はそれを見て「えっ、そんなのがあったの!?」と驚いた。
ふっふっふ、皆が見落としたからね、私達が貰っちゃったよ。



「私達なんて一日授業免除ってやつ。ね、トモミちゃん」



八坂と組んでいたトモミちゃんが苦笑しながら「ええ」と頷く。
一日授業免除ってやつも良いけど、やっぱり半年間ってやつの方が得だよなあ。
ということは、宝の中にもレア度があったわけか。



「何ぃっ!? まだ争ってる奴等がいるのか!?」



ふと聞こえてきた学園長先生の声。
驚いて八坂達と学園長先生に顔を向けると、学園長先生は山田伝蔵先生の報告を受けて驚いている様子だった。
どうやら、まだ宝を取り合っている生徒が居るらしいが、鐘が鳴ったら争っていても終わりのはず。
血気盛んというかなんというか……。
生徒が全員集まらないと終わらないというのに、人騒がせな。



「戦っているのは七松小平太と久々知兵助と尾浜勘右衛門じゃとぉ!?」



その言葉に、ピクリ、と反応する私と八坂。
じっと学園長先生の言葉を聞いていると、久々知君と尾浜は七松小平太に戦いを挑まれ、いまだに解放されていないらしい。
ということは、七松小平太が一方的に二人に絡んでいる、ということだ。
……ほう、そういうことなら……。



「八坂、」
「分かってる」



八坂に声をかけると、八坂は頷いた。
流石は八坂、同じ思考回路をしているだけある。
青ざめて怯えているユキちゃんとトモミちゃんを見れば、自分が今どんな顔をしているのか分かる。
そういえば最近、任務に歯ごたえなくて物足りなかったんだよなあ。



「この際だから、貴女の腕前見せてもらおうか?」
「くのたま史上最強に決まってんじゃん」



私達はお互いにニヤリと笑みを浮かべ、苦無を懐から出す。
ユキちゃんトモミちゃんの「い、行ってらっしゃい」という怯えた声を聞きながら、二人で歩き出す。
しかし、「待ちなさい」とシナ先生に止められた。
そして、「あなた達どこに行く気なの?」と問われた為、



――ちょっと地獄まで。



振り返ってそう言う私と八坂。
顔が余程般若に見えたのか、ユキちゃんトモミちゃんは分かりやすく悲鳴を上げ、シナ先生は青ざめた。




 ***




……あれは誰かを殺る目ね。
行ってしまった自分の生徒達の背中を見届け、私は小さく溜め息をついた。
出来る子達だとは思っていたけれど、あそこまで顔が怖くなるのは初めて見たわ。
教師なのに不覚にも怯えてしまったし、一年生の頃と比べると格段に成長している。



「せ、先輩達、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫よ、あの子達なら」
「そ、そうじゃなくて、七松先輩を殺すんじゃないかって……」



……ああ、確かにそっちの方が心配ね。
トモミちゃんの言葉に「心配いらないわ」と心にも無いことを言ってしまう。
でもあの子達は六年生、そこはちゃんとわきまえてくれるはず。
とりあえず私は……、



「学園長先生、七松君達のことはお任せください」



他の生徒が動き出さないように、学園長先生にそう声をかける。
学園長先生と山田先生、話を聞いていた生徒達が、私を不思議そうに見てきた。
潮江君が「しかし、」と口に出すけれど、私はその言葉を遮って言う。



「うちの子達が事を治めますので」



私の言葉に、学園長先生が「ええっ?」と阿呆な声を出した。

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