◆其の九

段々体力が尽きてきた。
七松先輩と組んでいる金吾が「七松先輩やめてくださいよぉっ!」と慌てながら言うが、七松先輩は聞く耳持たず。
俺と組んでいる三郎次、勘右衛門と組んでいる彦四郎の二人が隅の方で宝を守ってくれてはいるが……。
正直、このまま続けていれば俺も勘右衛門も体力が尽き、宝は奪われる。
いや、この際宝なんてどうでもいい、この人から逃げ出せれば。



「やっぱり戦うのは楽しいなあ」



ニコニコと余裕の笑みを浮かべながら言う七松先輩。
その笑顔に、俺と勘右衛門はゾッとし、楽しいなんて言えたものではない。
鐘が鳴ったのに戦うのをやめてくれないし、このまま負けるしかないのか……?



「さあ、行くぞっ!」



だが、このまま大怪我は負いたくない。
得意武器の寸鉄を構えると、七松先輩が苦無を片手にこちらに走り始めた。
素早い動きに、次はどう攻撃を仕掛けてくるのか見極める。
しかし、



ドォォオオンッ!



七松先輩の頭上から何かが落ちてきて、物凄い音を立てた。
その衝撃で土煙が広がり、「げほげほっ」と俺達は涙目になりながらもむせる。
土煙が晴れてくると、七松先輩がいた場所には七松先輩ではなく、くのいち教室の制服を着たくのたまがしゃがんでいるのが見えた。
七松先輩は?、と探すと、七松先輩は少し離れたところにいて、くのたまを驚きながら見ていた。
どうやら、くのたまからの攻撃を避けたらしい。



「避けられてるじゃん」



今度は、俺と勘右衛門の後ろから女の声が聞こえた。
気配を全く感じなかった為、二人揃って警戒しながら振り向くと、そこにはまたまたくのたまの姿。
その時、七松先輩に攻撃を仕掛けたくのたまが「うるせ」と返事をしながら立ち上がる。
い、一体、何が起きているんだ……?



「くのたま史上最強とか言っておいて笑うわ。今笑って良い?」
「駄目に決まってんでしょ」



口に手を当て少し笑みを堪えるくのたまと、眉間に皺を寄せながら睨むくのたま。
その時、七松先輩に攻撃をしたくのたまと目が合った。
くのたまは驚いたようで目を丸くすると、「おい、おいおいおい……」と呟く。
そして、七松先輩に顔を向けると、ぶわっと一気に殺気を出した。
今まで感じたことのない凄まじい殺気を肌でピリピリと感じ、足や手が震えていることに気付く。



「……お前、あの綺麗な顔に傷つけてんじゃねえよ」



女の声とは思えない程とても低い声。
明らかに先程の声とは違い、それはこの上なく怒っているからなのだと分かる。
七松先輩はその殺気を感じ、楽しそうに笑みを浮かべているが、同時に冷や汗も出していた。
七松先輩が冷や汗を出すなんて、余程強敵ということなのだろう。



「君達は校庭に戻っていいよ」



後から来たくのたまにそう言われる。
勘右衛門が「だけど……」と心配そうに言うが、くのたまはニコッと笑みを浮かべて「後は任せて」と言う。
確かに、今戦おうとしているくのたまなら七松先輩に勝てるかもしれないが……。



「私達なら大丈夫」



強いから。
そう言うくのたまは、戦い始めたくのたまに視線を向けていて、その表情は自信に溢れている。
そして、俺達から離れて七松先輩とくのたまの戦いをハラハラしながら見ている金吾に歩み寄った。
「おいで」と優しく言いながら金吾の背中を押し、俺達の元に連れてくるくのたま。
目が合い、「早く行け」と言われた気がする。



「行こう」



勘右衛門にそう声をかけると、勘右衛門も「ああ」と頷く。
隅にいる三郎次と彦四郎にも声をかけ、俺達は七松先輩やくのたま達に背を向け、走り出した。
……そういえば、学年も名前も知らない、見たことがないくのたま達だったな。
どうして、わざわざ俺達を助けてくれたんだろう?

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