壊れてそして | ナノ
■ 黒尾鉄朗は、@

ハルが転校したての頃、クラスの友人に幾度となく聞かれた言葉がある。

「春瀬ちゃんと黒尾君って、本当の家族じゃないのに何で一緒に住んでるの?」

何の他意も含まれない単純な疑問。大人であれば何か事情があるのだろうと察して聞かないだろうが如何せん相手は子どもで、自分もまた子どもだった。
「いいだろ別に。住もーって思えば住むことできんだよ。」
「そんなのおかしーよ。親戚でもないんでしょ!」
「そーだよ。もしかして春瀬ちゃん、家出したの?」
「なんで何も言わないの春瀬ちゃん」
「うーん…」
困ったというように苦笑するハルのその顔を見たくなくて、俺はうるさいお前らあっち行けと1人の子を手で押した。拍子に転んだその子が泣き出し、それを見た取り巻きの女子達がかわいそう!ひどい黒尾君!と俺を非難し先生に告げ口するんだから!と走り去っていった。ベェッと舌を出してハルの手を掴む。
「あんなの気にすんなよ!」
「…ありがと」
ヘニャリと破顔するハルに、そうそうこの笑顔が見たいんだ俺は!とにっかり歯を出して笑う。先生に呼び出しを食らい、女の子を泣かしてはダメだろうと怒られたのはその数分後だった。

その時期一度だけ、クラスの男子と大きな喧嘩をした事がある。どうって事ないくだらない理由だが(撤回。今でも俺はブチ切れると思う)、俺とハルが一緒に住んでるのはハルが無理矢理俺の家に押しかけたからだと変な噂を流す同級生がいたのだ。今考えればそいつはハルの事が好きだったんだと思う。でも反応を見せず流すだけのハルに腹を立ててからかうという、好きな子ほどいじめてしまう小学生特有のアレだ。終いには疫病神などと言い始めたものだから、俺は大噴火。教室で椅子を倒しまくる程の取っ組み合いが始まって大騒ぎになった。双方の親も呼ばれて一日中説教続き。何で謝らないといけないのかと思ったがとりあえず形式上だけのごめんなさいをした。
喧嘩の理由を聞いた母さんは一度だけ俺の頭をはたいた。暴力で解決をしたらダメだと口酸っぱく言われた後、「でもあんたは偉い!」とケツを叩かれた。母さんも相当、相手の親に言われただろうに。

その夜ハルが部屋に来た。
どうしたと聞いたら、ごめん、と小さな声でポツリと呟いた。正直言って俺はハルにも怒っていた、いっつも笑ってばかりで何故何も言い返さないのか、もっと怒っていいと思う、怒るべきだと頬を膨らませた。
「………でも、」
「俺はハルの事疫病神だなんて一度も思ったことない!」
「……怪我してるとこ、いたそー」
「めちゃくちゃ痛い!でもこれは勝利のクンショーってやつだな!」
「今日の、クロが勝ってたの?」
「俺の中では俺の勝ちだから俺の勝ちだな」
ワッハッハと仁王立ちする俺に、なにそれーと笑う。
丁度その時期からだろうか、ハルは随分と笑顔が増えた。それまではクラスでもあまり人と話さず静かに過ごしていたのだが、徐々に同級生とも付き合い始めた。良かった良かったと当時の俺は思ったが、ーー今考えてみれば、俺が自分の為に喧嘩をし傷付いてしまうのなら、そうしないようにしなければいけないと積極的に人と関わり始めたのかもしれない。あくまで、推測だけれど。気付かれないように、ヒッソリと自分一人で何かを決めるのが彼女の癖だ。
昔から、何でもないフリをする術に長けていた女の子だったのだ。だからその時の俺も気付かなかったんだろう。まだほんの子どもだった彼女が本当の家族ではない≠ニいう事実にどれほど悩まされていたのか。言われた言葉を流して笑って誤魔化す彼女の心の内がどれだけ荒れていたのか、知らなかった。


中学1年に入った頃、クラスの女子に呼び出しをされた。これまたベタに体育館裏、所謂告白というやつだ。他人から好意を持たれるというのは悪くないものだが、友達としか思ってなかった為ごめんと頭を下げた。

「………黒尾君は、」
「ん?」
「やっぱり春瀬ちゃんが好きなの?」
「エッ」

その時の俺の衝撃たるや、稲妻が走るという表現はこの時に使うと思った。

何と答えたか覚えていないが、ハルが好きなのかという問いが俺の頭の中でグルグルと、まるで太陽の周りを回る地球のように駆け巡った。

ハルと話すのは楽しい

笑い顔が可愛い

笑ってなくても可愛い

俺にも人にも優しい

ずっと一緒に居たいと思う

「………」

いや待てこれはそうか、そういうことかと俺は顔を輝かせた。

「俺、ハルが好きだったのか!!」

ヒャッホーイ!と部屋のクッションを抱きしめた当時の俺は、自分で言うのもなんだが可愛い健全男子だった。こうしちゃおれんと急いで研磨に伝えると、何を今更とゲーム機からも目を離さずに「そう。」とだけ呟かれた。冷たい幼馴染だ。
ハルはどう思ってるだろう、両思いだったりするのだろうかと胸を弾ませいっそのこと伝えようかと勢いに身を任せようとしたが、そこである思いが頭を過ってしまった。
もし、もしも、
もし俺だけが好きで、相手はそうじゃなくて、ハルが断ったら、
「……居づらくなんのかな」
只でさえ何故一緒に住んでるのかと周りからよく言われるのに、俺の告白を断ったらもっとーー。
やべ怖ぇと急に怖気付いたチキンは、先程までの勢いはどこにやら、様子見しようと情けない決断に至ったのだった。




その数ヶ月後、ハルは家を出た。
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