壊れてそして | ナノ
■ 文化祭1日目

春瀬のクラスが仮装喫茶をする事が決まった日から、早いもので数ヶ月が経った。

いよいよ文化祭当日、いつもと全く違う雰囲気の校内が生徒達の心を更に浮き立たさせる。時計が予定の時間をまわると、校内放送が流れ始めた。

『只今より第◯◯回文化祭を開催致しますーーーー』

わぁと声が上がれば、既に外で待機していた人達がゾロゾロと門をくぐって中へと入ってくる。入り口付近で露店を構えているクラスが早速といわんばかりに自分達が出す食べ物のアピールを始めた。そしてそんな様子を春瀬と三井、唯川は三階の窓から興味深そうに眺めていた。
「ゆっこみーちゃん見てみー」
「見てるべー」
「割と人来てるという事実に驚きぃ」
「ほんそれー」
文化祭は土日の2日間。さぁやるかと3人は持ち場へと戻っていった



「たこ焼き2つ下さい」
「うぃーすありがとうございます」
お釣り200円のお返しですと柔和な笑顔を浮かべながら丁寧な対応をする学生に、思わずその女性客も破顔する。
「お兄さん大っきいねぇ。180はあるでしょう?」
「187っす。」
「190近いじゃない!」
「でもこの3センチが壁なんすよ〜〜」
「あら」
クスクスと笑いながらそんな会話を交わした後、出来立ての商品を手渡す。ありがとねと手を振られれば会釈を返した。その後ろで、夜久衛輔が心底胡散臭そうな顔でその学生、もとい黒尾鉄朗を眺めていた。
「……お前演技派だよな。その笑顔気持ち悪い」
「失礼ねやっくん。いつも本心で笑みを浮かべてますよボクは」
「無駄に爽やかなその笑顔気持ち悪い」
「二回言う必要あった?」
酷い子っ!と泣き真似をしてみるも慣れたようにハイハイと雑に返される。あぁそういえばと夜久が切り出した。
「午後の休憩、他の所見て回ろうぜ。海とか研磨んとことか、あぁあと貴田のクラスも。仮装喫茶店だったよな確か」
「…………………ハル何着ると思う?」
「あ?って顔こわっ!」
「可愛いの着てたら俺どうしよう死ぬかも」
レジを抜け、2人は商品を作る裏方に回っていた。器用にたこ焼きを作りながら、黒尾は真顔で夜久にそう尋ねる。
「最近貴田愛が重症化していってねぇかお前」
「思います?僕もチョーそれ自覚してるところです」
「衣装何着るか聞かなかったのか?」
「聞いたんだけどすげぇ口歪めて教えないって言われた。俺の推理、あいつの性格上こういうイベントの時はどちらかというとネタ系に走りたいタイプだと思うわけよ。それなのにあんな嫌そうな顔したって事は多分クラスの誰か、あのギャルっ子二人とかに可愛いの着せられるんじゃないかと予想している。だからあれは自分のキャラじゃない衣装着るよオエッ≠チて顔だったんじゃないだろうか」
「お前気持ち悪いな」
「3回目どーも」
ペラペラと喋りながらもたこ焼きの形を整えつつき回す手は止めない辺り、器用なものであった。


リエーフは非常に困っていた。どれくらい困っているかというと、いつだったか通りすがりのロシア人にロシア語でペラペラ話しかけられた時くらい困っていた。
「君バレー部のぉ1年のぉ灰羽君でしょおー」
「はぃぃ」
「近くで見たら遠目から見るよりでっかいのなぁ?」
「そっそうですかなぁ?」
思わず口調がうつってしまったりもしていた。口説かれたりという所謂逆ナン、ではない。ただ単にギャル2名もとい三井と唯川に絡まれていた。三井は白雪姫風のドレス(但しミニスカートである)、唯川は赤ずきんのような服装だ。自身のクラスの出し物である仮装喫茶の為だろう。二人共その服装を着こなせていてよく似合っているのだが、いかんせん初対面であるリエーフにとっては少し恐怖である。そもそも何故こんなに絡まれているのかと心当たりを自分の頭の中で探った。
「なにやってんのおまいら」
黒尾と夜久が苦笑しながら3人の元へと近付いてくる。リエーフの顔がパァッと明るくなった。
「黒尾君と夜久じゃん」
「やっほー」
「三井と唯川、すげぇなその格好」
最近親しくなった黒尾とは逆に、1年の頃同じクラスだった為夜久と二人は割と仲が良い。先輩等の登場によって弄られる矛先が変わった事にリエーフはホッとする。
「それ仮装喫茶のやつ?」
「そーそー。うちら勧誘係にまわったからさーそこら辺プラプラしながらビラ配ってたら、この美男子君に会ったわけぇ」
「あぁ顔は良いボク達のこーはいリエーフ君に」
「成る程、顔は良いオレ達のこーはいリエーフ君な」
「何か褒められてるようで褒められてませんよね!?」
「てことで3人ともきてよーウチらんとこ」
そう言ってビラを渡す三井に黒尾は今行くところだったと笑いながら受け取る。
「結構人来てんのよ。いやぁかわいこちゃんが集客してくれてるわよねー」
「黒尾君、春瀬ヤバいから覚悟しときな」
「はいしんだ」
「早えわ馬鹿かよ」
「俺も行きたい!黒尾さん夜久さん俺も付いてってもいいですか?!」
「いいけどお前クラスん奴等は?」
「はぐれました!」
「どいつもこいつも馬鹿かよ!!」
三井と唯川はもう少し勧誘してからクラスに戻るようで、また後でねと人混みの中に紛れていった。じゃあ行くかと春瀬の教室へと足を運ぶ3人。黒尾とリエーフという巨人の間に挟まれて歩きたくない夜久は無言で二人より端へと移動した。
「そいえばリエーフのクラス何やってたっけ」
「俺等はダンスっすよ!タイムテーブルもう終わったんで後はやる事ないです!」
「舞台の出し物は準備は大変だけど当日終わってさえすれば結構楽だよなぁ。」
「緊張はすげーするけどな」
「?緊張しますか?」
「あぁ…」
「お前しなさそ…」
ジト目で二人に見つめられ、なんなんですかー!とリエーフが叫んだ。
ふと、黒尾の目の端に男二人の影がチラついた。それが何だか妙に気になってその方向に目を向けると、チャラついた一般客2名がニヤつきながらある女生徒を見つめている。その先にいるのは同じクラスメイトの坂木だった。
「…………」
「?どうした黒…」
ナンパする気満々というか、そういう下心丸見えな事がすぐ見て取れる。何も言わず、走りはせずとも、早足でそこに向かう。今にも手を伸ばしそうな男二人と坂木の間に割って入り、黒尾は男達には気付いていないというように振る舞って、坂木に声をかけた。その声に直ぐ振り向いた坂木は、嬉しそうにどうしたのと笑った。
「悪い。クラスの担当時刻表持ってるか?俺と夜久、休憩何時に終わるか忘れちまって」
「あ、持ってるよ!ちょっと待って」
確かここに挟んだようなと持っていたバインダーを坂木が捲るのを尻目に、男達の様子を探る。舌打ちしながら他でも当たるかという声が聞こえ、その場を離れていく様を見てとりあえずと安心した。あった!と坂木が紙を見せてくる。
「あーおっけおっけ。手間かけさせた、ありがとうな。」
「ううん全然!」
ニコニコ笑う彼女に、夜久が眉間に皺を寄せながら口を開く。
「坂木さん、気をつけた方がいいよ」
「?何が?」
「さっきさ」
「さっき下の階でチャラっそーな奴等が女生徒狙うーみたいな話してたから。俺等とりあえず会った女子達にその事伝えといた方がいいなってなってたわけ。なぁ夜久」
「え、あ、あぁ。そう、先生にも一応言っとこうぜって」
「女の子達皆に言って回ってるの?紳士だねぇー黒尾君達」
ありがと〜と微笑む坂木に、夜久はやっぱ可愛いなこの人と頷いた。ずっと後ろでその話を黙って聞いていたリエーフが首を傾げて口を開く
「あれ?でも」
「んじゃ、俺達他のクラス見て回ってくるわ。ありがとな坂木」
「あ、うん。」
しかしリエーフが何か言う前に黒尾がそれを遮って、手をピッと立てて坂木から離れていく。続いて夜久も手を振り、リエーフは会釈してその場を後にする。
「?黒尾さん、下の階でもあのチャラ男達見かけたんですか?」
「いんや。」
「エッ!嘘ついたんですか!」
「そう。」
「そうって」
「…………あー、待てよ。黒尾お前そういえば坂木さんに」
「そーなのー」
「さっきのキレーな先輩と何かあったんですか?」
興味しかないというようにリエーフが黒尾を見てくる。その視線を嫌がるようにえぇいと黒尾は手で振り払うような仕草を返す。
「前告られた。」
「えー!なんで黒尾さんに!あ、…いや違うんですよ、ダメとかじゃなくて」
「やっくん、リエくんは朝から晩までレシーブ練したいみたいはーと」
「良い心意気だなリエーフ」
「やだやだやだ」
いじめないでくださいよー!と涙目になれば冗談だよと黒尾は笑う。
「まぁその、なんつーか。普通にお断りしたんだけど、一応友達に戻りたいとは言われたわけですよ。」
「へぇ」
「けどほら、やっぱあれじゃん。1度そういう感情持ったら、完全に忘れる事って難しいだろ。もし本人がもう俺の事何も思ってないとか言っても。」
「まぁな」
「だから……なんていうかなぁ。さっき俺が坂木さんをナンパされかけてた所を助けました、的な事を知ったらさ、……いやわかんねぇけど、俺はそう思っただけだけど、」
「はっきり言え」
「…要するに余計な期待は持たせたくないわけ。フッた側はそれなりの態度を示すべきかなって思うタイプなの、ボクちんは。だから坂木さんを庇う為に俺が動いたなんて知ったらちょっとアレだろ。…………………」
「……え、急に無言どうしたんですか」
「自分で言っててなんかすげー恥ずかしくなってきた。この話終わり。とりあえず俺はやるべき事はやった、以上。」
「突然のクライマックス」
恥ずかしいなんかすいません上目線でと黒尾がスタスタ歩いてく。リエーフは未だあまり理解出来ないというように夜久を見た。
「………まぁつまり、あれは恋愛に関してしっかりしてる奴なんだよ」
「へー?」
こいつやっぱりよく分かってないだろと夜久は苦笑した。すると前方を歩いていた黒尾が突然立ち止まる。
「?今度はどうした」
「夜久」
「お?」
「さっきの奴等他当たるかとか言ってたよな」
「言ってたな」
そして直ぐに黒尾の言わんとしてる事が分かって、思わずゲッと口を歪めた
「その対象ハルに向けたらブチ殺してやる」
そこは過激派ー!?と夜久とリエーフは顔を見合わせた。


「名前くらい教えてよ〜」
「そーそー。俺等別に悪い奴じゃないよ?」
「さいでごぜぇますか」
場所は変わって3-5、仮装喫茶。先程の男性2名が席に着き、注文を取りに来た1人の女生徒、春瀬の姿を見ながらニヤニヤと笑う。そんな二人に呆れたという表情を包み隠す事なく、彼女はペンと紙を手に持って怠そうに立っていた。
「それでお客様、ご注文をお伺いしても?」
「じゃあ君の名前注文してもいいかなぁ?」
「500ペソになります」
「日本円じゃないんだ!?」
「ねーねー勿体ぶらずにさ〜」
春瀬の細腕をギュッと掴む。周りの生徒達がヤーさん呼んでこい!と慌てて動き回っていた。
「綺麗な手。スベスベ。肌も白いし」
「食べちゃいたくなるよな〜」
「雪見だいふくでも食ってろ」
「な、」
鬱陶しいというようその手をパシンと振り叩けば、いい加減その態度に我慢ならなくなったのか男達の顔がみるみる内に歪んでいった
のだが、それは直ぐに萎んでいき、今度はみるみる内に青ざめていく。その視線が春瀬の背後にある事に気付き、何だと振り向いてみれば
「うわ」
元々切れ長である目は更に悪人顔になり、これでもかというようにドス黒いオーラを包み隠す事なく男達に睨みを利かす黒尾の姿。その図体のデカさが更に迫力に拍車をかけた
「ななな、」
「なんだおまえ、ってかさっきの、」
「貴方方は」
腕を掴みグイッと春瀬を己の背中に隠した黒尾は、それはそれは低い声で言葉を並べた
「文化祭目当てですか?それとも女目当てですか?馬鹿なんですか?」
「は、」
何をと対抗しようとするも、今度は黒尾の背後にいる男性にヒィッと悲鳴を上げた。なにこれデジャヴと春瀬がまた後ろを振り向けば
「うわ〜」
極道顔とはまさにこの事、担任である久保が立っていた。


「助かったよーありがとねー」
男二人が久保に連れて行かれたのを見送った後、喫茶はまた通常の雰囲気に戻った。いつもの制服姿とは違い、各々色んな衣装を身に纏って見ていて面白い。教室内はカラフルな飾り付けが施されていて、気合が入ってるなと感心する程だ。
「春瀬さん……………」
「はいよ」
「超ハマり役っすね………!!!」
凄いというようにキラキラとした瞳で春瀬を見つめるリエーフの隣で同じく夜久もすげぇなぁと目を瞬かせていた。春瀬の仮装は、アリスだった。金色の頭には黒いリボンが綺麗に結ばれており、水色ワンピースの上から白のエプロン、そして白のニーハイに黒のパンプスを履いていた。加えて、
「それカラコン?」
「うん。初めてつけた」
瞳は青だった。元々鼻も高く色白な為、その姿はまさにハマり役で三井達がヤバいと言っていた理由が素直に納得出来てしまう。可愛いですー!と春瀬に連呼するリエーフに恥ずかしくなったのか、彼女はバカヤロウコノヤロウと銀色の頭にチョップをかましていた。
「…………んで、お前何も言わねーの」
ニヤニヤと笑いながら、夜久が隣で黙っている黒尾に小声で声をかける。
「……………なんか色々感情忙しくて疲れている」
「なんじゃそりゃ」
「あいつあんな足長かったか」
「あ、見るとこちゃんと見てんのな」
とりあえず何か注文しよーぜと三人はメニュー表を開いた。

15分程そこで談笑した後そろそろ戻るかと席を立つ。リエーフは喫茶内にはぐれていたクラスメイトを見つけたようで、黒尾さん夜久さんありがとうございましたー!と、その場を去った。
「わざわざ来てくれててんきゅーそーまっちょねー」
「パウンドケーキ美味かった。ごちそうさまな」
そう言いながらポンと黒尾の背中を押す夜久に何だと目を向ければ、ニッと笑いながら俺先に行ってるぞと手をヒラヒラさせて教室から出て行く。何だあのイケメンはと思いながら、あーと黒尾は春瀬の方を見た。
「…………ハルさんや」
「なんだねクロさんや」
「最高に似合っててボクびっくりですよ」
「これ割と本気で恥ずかしいからやめてくれありがとうございます…」
本当は力士の着ぐるみを着たかったけどみーちゃん達に止められたんだよねという春瀬の言葉を聞いて、黒尾は心の中で全力であの二人に礼を述べていた。
「で、本題なんだけど」
「ん?」
「明日、一緒に学祭回らね?」
そういえば前もそんな事言ってたなと春瀬は思い出す。どうしようかと迷えばふと、坂木の顔が頭を過ぎった。
(………やっぱり黒ぴのこと好きだから私の事嫌ってるんだろうなぁ)
まぁ正直それはどうでもいいと思ってるのだが(そこは冷静に冷たい春瀬である)、少しずつ彼との距離を離していきたいと思っていた春瀬にとって、その誘いはあまり受けたくなかった。ーーー本心とは、違うのだが。
「ごめん、」
みーちゃん達と約束してて、そう言おうと顔を上げれば、大きな手が春瀬の口をやんわりと覆う。
「間違った疑問系じゃないです。明日俺と回ろっネー」
んべ、と舌を出してじゃあなゴチソーサマと春瀬の口から手を離し、黒尾はそのまま教室を出て行く。
その背中を見送り、目を瞬かせてその場でポカンとしてると、
「あらあらあら〜?」
「見ちゃった見ちゃった〜」
いつの間に帰ってきたのか。三井と唯川がニンマリと口を緩ませて春瀬の隣に立っていた。少しどもった声でおかえりなさいましと言えば、たっだいま〜とニヤニヤした顔で返してくる。
「学祭デート、カーッ羨ましいですなぁみーちゃんさん」
「ほんとねゆっこさん」
「デートじゃないよぉyo-yo」
「yo-yoそれはデートだyo」
突然の謎ラップである。

三人は控え席へとまわり、腰を下ろした。
で、と三井が言う
「春瀬さ、ぶっちゃけ黒尾君とどーなの」
「ええ…」
なんもないよーと返せばフーンと全く信じてないような顔をされる。
「いや、ウチらもね?お二人の問題だからそんな首突っ込まないでおこーと思ったのよ?」
「そうそう」
「でもあんっっっまりにも、進展がないから。春瀬、」
好きじゃないの?
こういう話題はあの合宿以来である。春瀬は苦笑しながら静かに返した。
「好きじゃないよ。」
あの時みたいに動揺がそこまでないのは、自分の意思が固まったからだろうか。三井が少し考えて、でもさと切り出す

「黒尾君はあんたの事好きっしょ」

は、と思わず間の抜けた声を出す。

そして我に返り、いやいやなんて事を言ってるのと春瀬は慌てて手を振った。
「ないないないない。いやいや。」
「春瀬自分の事となると鈍感なんだねぇ」
「いやいや。ないでしょ。それにクロには私なんかじゃなくてもっと良い人がいるよ。」
笑いながらそう言うと、三井が硬い表情を見せる。唯川がそれに気付いて、あー…と頬を掻き、まぁいいやそういえばさと話題を変える。
「春瀬結局、先生に靴箱の事言ったの?」
「へ、………あぁ。あれか」
「あれってあんたね…」
「あはは。言ってないわそーいえば。」
「なんで。」
「んー」
そんな気にしてないからにゃーと手をプラプラさせながら余り物のパウンドケーキにがぶりと被りつく。それに犯人知っちゃったしなーと思わず口が滑りそうになるもそれは言わないことにした。
「…………靴箱以外にも、被害あってんでしょ?」
「んー…」
「言おうよ。ウチらも一緒に行くから」
「いやいいよ」
「なんであんたそんなんなわけ」
結構味のクオリティ高いなと甘味に幸せを感じていると、突然語気が強い口調で三井が口を開く。聞いた事のない彼女の声に驚いて、春瀬は咀嚼を思わず止める。唯川もビックリした様子で三井を見た。
「意味わかんない」
そう言葉を吐き出して、二人の顔を見もせずに立ち上がってその場を離れる。どこ行くのと聞いても何も返事はなく、三井は教室を出て行った。
「……………」
「……………」
「……………」
「…………………あー」
突然の事に春瀬は固まったままだったが、唯川は気まずそうに、けれど納得したように頷いた。
「……………まぁ、三井の気持ち私は分かる」
「へ」
「私も一応、はぁ?てなってるよ。」
苦笑いをしながら春瀬の頭を軽く叩く。どういうことだと困った顔を見せる彼女に、ハァとため息をついた。
「春瀬あんたさぁ、」
「…ん」
「自分の事卑下し過ぎ。あと興味なさ過ぎ。」
ばーかと続ける唯川の言葉に、春瀬は口をつぐむ。
「最近ずっと、二人でその事気にしてたわけぇ。」
「………」
「春瀬はさ、周りの人に凄い優しいじゃん。あんたは無意識かもしんないけどさりげ人の事よく庇うし、………1年の時の事覚えてる?初めて喋った時」
「………ヴァージニア州?」
「あっはっはっ!それそれ。あの時から私も三井もさ、春瀬の事めっちゃ好き。チョーいい奴と思ってる。会えてよかった〜て思ってんの。」
「……私もだよ」
「ん。だからさ、だからこそあんたのそーゆーのが嫌なの。」
「………んー」
「ほらまた」
割と頑固だよね春瀬と笑われ、そうかなぁと困ったように微笑んだ。

そういうの≠ニは、何だろうか。

自分の事を卑下し過ぎだと言われても、別にそんな事はないとしか返せないし、自分の事に興味なさ過ぎだと言われても興味を自分に向ける意味があまりよく分からない。分からなかった。それが普通≠セったから。
でも、
(……………みーちゃんとゆっこが、嫌なのか)
二人がそれが許せないのなら、と思ったその時

「たっだいまーー!!!!」

バーンと言うように大きな声を出して戻ってきた三井に、二人は本気で驚いてしまって肩をビクつかせた。その様に満足したようにケタケタ笑う
「無理だったわ〜私に怒りの持続性なんてあってないようなもんだったわ〜あっこれそこのクラスで買ってきた奴。三人で食べよっぜぇ」
「お、おぉ……お金…」
「勿論後で割り勘だわぁ」
「きっちりしてるぅ」
さっ、食べよ食べよ!と快活な声を上げて、三井は割り箸をパキンと割る。暫し驚きの表情を見せた後唯川は一つため息をついて笑い、よっしゃと箸を取った。
「春瀬も食べな〜なんか手当たり次第いっぱい買ったからさぁ〜」
「…………………………みーちゃん、」
「んー?」
「と、ゆっこ」
「はいよー」
「…………………文化祭終わったら、一緒にせんせーのとこ行ってくれないデショーカ」
ポソポソと、そう告げた春瀬に二人は目を丸くして固まる。そして顔を見合わせた後、もちのろんげ〜と破顔した。


(自分への卑下、自分への興味、か。)


パキンと割った春瀬の割り箸は、均等に割れずに片方が尖ってしまった。
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